30話 クマさんの逆襲

 大河の足には鉄製の足枷がはめられ、繋がれているチェーンの先には鉄球の重りが取り付けられていた。


「までる囚人とかが足に付けられてるやつみたいだな。漫画とかでは見たことあるけど実物見るのも装着されるのも初めてだな。あはははははは…て、おーい!」


 大河は慌てて足を動かそうとするも取り付けられている鉄球の重さのせいで僅かしか動かず『チャランチャラン』と鉄同士がぶつかり合う音だけが激しく虚しく耳に届いた。

 そんな中ヒートベアーが大河に向かって襲い掛かってきた。大河はとっさにによけるものの、すぐに2撃、3撃目が大河に繰り出された。


「グァー!(これまでのも恐らくお前のせいだろう。よくもやってくれたな!)」


(ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!)


 大河は一瞬にして最悪の状況に追い込まれてしまったためひどく動揺した。これまでは攻撃をかわすと同時に一定の距離を取ってヒートベアーの射程外に逃れていたため、ヒートベアーからの攻撃が単発ですんでおり、何とか逃れていた。


 しかしその場から足が動かせなくなったことによりスピードの優位性を失い、距離を取れなくなった事でヒートベアーの攻撃範囲内で回避し続けることを余儀なくされた。


(くそ!何でよりによってあのタイミングで)


 大河は至近距離でヒートベアーの攻撃を紙一重のところでかわし続けた。するとタイミングを見計らっていたかのように大河にとって声を聞きたくない人物No.1の人物声が脳内に響いてきた。


『いや~随分面白いことになるとるようじゃないか』


『クソ神!こんな余裕のないときに話しかけてくんな。空気読め!』


『何を言っているのじゃ?空気を読んでいるからこそ話しかけてやっているのじゃよイヒヒヒヒヒヒヒヒ』


(本当につくづく腐ってるなこいつ)


『まさかこの足枷は貴様の仕業じゃあるまいな?』


『自分の日頃の行いの悪さからくる不運をあろうことか善良な神であるワシのせいにしようとは貴様本当に失礼で罪深い奴じゃのう』


(どうやら天界では横暴な独裁者の事を『善良』と呼ぶらしい)


『大体転生後はいかに全知全能たるワシでも異世界には干渉できんのじゃ。じゃから貴様の無礼な憶測見当違いということじゃ』


(こいつの言っている事が正しいかどうかは兎も角、少なくともこいつが全知全能なんて大層なものではないのだけは確かだな。自分が送った転生者の事すらロクに把握出来ていないのだから。無知無能という呼び名の方がコイツには相応しいだろう。それよりも…)


 大河は焦っていた。ヒートベアーから攻撃されている事よりも、その止めどなく続く連撃が一向に止む気配が見えない事に緊張感が増幅していった。


(どうする?距離も取れない上に攻撃も止まない。それどころか寧ろ…)


 大河は追い込まれていた。精神的にも肉体的にも。ヒートベアーが攻撃を続けるたびにある変化が訪れていた。攻撃が数を重ねるごとにヒートベアーの体毛が徐々に赤く染まり、それに比例する形で攻撃の速度がどんどん上昇していったのだ。


 何とか攻撃を回避し続ける大河だったが一撃当たれば首が消し飛ぶ事を予感させるとてつもない緊張感の中で、雨あられの様に続く怒涛の攻撃はあっという間に大河から体力と思考を奪っていった。


(いつまで…続くんだ…)


 疲弊して落ちていくいく一方の大河と攻撃を繰り返すごとに調子が上がってきたと言わんばかりに速度の増すヒートベアー。このまま続けばどうなるのかなど回避で一杯一杯の大河でも理解していた。


 攻撃をよけることは何とかできていたがその場から動くことができずじり貧だった。この状況を打破するためにはスキルを使用するしかないわけだが満足に動けない今の状態で使いまた自分めがけて危険物が飛んできたらと思うとすんなりと発動させることができなかった。


 しかし熊の繋ぎの無い連続攻撃によってよけ続けていた大河の体力はあっという間になくなっていき選択の時は迫られた。


(イチかバチかだ)


「足枷消滅」



『ユニークスキル:ゆびをふる発動

 タイガは指を振って【足枷消滅】を選択した

 発動失敗:ヒートベアーの攻撃力が大幅に上昇した』



(ハズレか…でもどうせ敵からの攻撃を当てられたら終わりなんだ。速度を異様に上げられたりしなければ何とかなる。攻撃力を上げられても別に問題な…)


 次の攻撃を海老反る形で避けた直後に大河の視界に驚きの光景が広がっていた。大河の後方の木々が粗方なぎ倒されていたのだった。


(え?なんで俺の後ろ側の木だけあんなに倒れてんの?もしかしてクマさんの攻撃でああなったの?斬撃がエアーカッターみたいに飛んで?)


 その事実に大河は嫌でも足がすくみそうになった。これまでも避けている際に『当たったら終わり』とは思っていたが『もしかしたら一撃くらいなら…』という考えが浮かんでいた。しかし今しがた目にした光景によってその考えは吹き飛んだ。『当たったら恐らく即死』から『当たったら間違いなく即死』に切り替わった。


 そして増長した恐怖心からスキルを使用し続けるのを躊躇しそうになったが、どの道選択肢がないのだと自身に言い聞かせて勢い任せてに踏み切った。


(ええいやけくそだ!これ以上状況が悪化なんかしないだろう!)


「足枷消滅」



『ユニークスキル:ゆびをふる発動

 タイガは指を振って【足枷消滅】を選択し た

 発動失敗:タイガはフライパンを手に入れた』




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