29話 ストレス発散


「さあクマさんや、これから一緒にデスゲームを始めようや」


 大河が高らかに語りかけるなか、ヒートベアーは被弾した胸元付近を擦りながら大河を睨んでいた。


「勘違いしないでくれ、俺だって別にこんなことやりたくはないけど仕方ないよね?こっちは何事もなく立ち去ってくれるのを願ってたのにそっちが非力な俺達を目が合って一目散に襲ってきたんだからどうしようもないよね?俺だって自身の身を守るためにしょうがなくやっているんだよ」


(なんか悪党の建前や詭弁みたいな言い回しになってしまってるなこれ)



「これは俺がスキルの検証を行う為に実験を必要としててそこにお前が現れたからお前で試そうとか最近色々あってむしゃくしゃしてるから八つ当たりがしたいとかみたいな個人的理由ではなくただ単に生き残る為の最善策として嫌々ながら仕方なくやっているんだ。そう、しょうがないよね?正当防衛なんだからさ」


(自分で言っておきながらまるで悪役みたいに恐ろしくスラスラ嘘が出るな。あのトンデモヘアーコンビに関わってしまったせいで汚染されてしまったのかもしれないな。少し性格が歪む感じがするけどまあ今だけだろうから目を瞑ろう)


「いや~さすがにモンスター相手とは言えこんな非道な行いをやらねばならないなんて良心の塊で出来ているような俺には身が引き裂かれそうな思いでとても心苦しいよ」


(まぁこんなゲームやってると心の前に体の方を物理的に引き裂かれそうになるけど)


「心苦しいと言っている割には顔はとても清々しく爽やかな笑みを浮かべて楽しいでいる様に見えるのじゃが?」


「何を言っているんですかそんなわけないじゃないですかあははははは」


 ボヘムの指摘の通り大河の気分は高揚していた。この世界に連れてこられた際の様々な理不尽に加えて、転生特典で与えられたスキルが役に立たないを通り越して自分に危害を加える障害へとなり果て、警備隊とは名ばかりの門番モドキに悪意で捕まったり、魔王討伐の冒険者としてこの世界に転生されたはずが金がなくて冒険者になれず、止めにモンスターが現れることはないと言われていたのに遭遇してしまい立ち去ってくれることもなくまともな戦いでは戦闘にすらならないムリゲーを強いられていたのである。


 故にこれまで味わってきた自分の理不尽を現在無理ゲーを仕掛けてきた張本人に少しでも味合わせて鬱憤晴らしという名の八つ当たりが出来ると思い大河は嫌でもテンションが上がっていた。


(俺と同じ恐怖を体感するがいい)



『ユニークスキル:ゆびをふる発動

 タイガは指を振って【サンダーボルト】

 を選択した

 発動失敗:タイガの前方からファイヤーボールが放たれた』



 自分の名前の次に記された文字が『前方』と方角が表示された瞬間大河はその場を動かずニヤリと笑った。その直後ヒートベアーの背後に現れた火の玉が背中を直撃してヒートベアーは悲鳴の様な唸り声をあげた。


「グゥ…ウウゥ…(何故…突然背後から…)」


 ヒートベアーは怒りと得体のしれない恐怖の入り混じった感情の中、ファイヤーボールが撃たれた背後を確認するもそこには何も存在せず困惑する気持ちが膨れ上がっていった。そしてヒートベアーが不満を募らす表情を見ながら大河は共感しながら愉悦に浸っていた。


(分かるよ。よーく分かるよ今のヒートベアーの気持ち。何処からともなく危険なものが飛んでくるのは怖いよね。前ならまだしも背後とか感知する力とかで前もってわかってないと対応できないよね?うんうん。俺も何度死にかけたことか)


 大河も使う度に自分に危険に陥った過去を回想し思いふける。


(だからさ…存分に味わっていってくれ)


 そしてニヒルな笑み浮かべながら再び指を振った。



『ユニークスキル:ゆびをふる発動

 タイガは指を振って【サンダーボルト】

 を選択した

 発動失敗:タイガの攻撃力が下がった』



(これは現在のところは特に意味のない効果に分類されるから有難いな。攻撃力が下がったところでそもそもこのモンスター相手に直接攻撃できる手段なんてそもそっ持ち合わせていないのだから。


 ゲームで言えば特殊攻撃型しか出来ないキャラが物理攻撃のステータスにデバフをかけられたところで痛くないのと同じ理屈だな。まあ悲しいことに今の俺はどちらも持ち合わせていないのだが。)


 それから大河はハズレのハズレであるが故の当たりを引き続け少しづつだがヒートベアーにダメージを与えていき、戦闘を有利に進めていった。


「いやーそれにしてもなかなかにスリリングじゃのう」


 ボヘムは大河の目掛けて飛んでくる危険物を大河が回避する度に彼にも際どい距離で自分の横を通過して行ってるにも関わらず、恐怖心から怯えたり動揺したりするどころか関心したり、寧ろ楽しんでいる様にさえ大河には感じられた。


(普通の人であれば泣き叫んだりしててもおかしくない状況なのにこの余裕…かなりの天然なのかもしれないが、余程修羅場を経験してるみたいだなボヘムさん。当たったら致命傷レベルのヤバいのが体や顔面付近を往復してるのにテレビで格闘技とかを観戦してる人みたいにリラックスして楽しんでるからな。それはさて置き…)


「そろそろ終わりだ」


 止めと刺そうと本日何回目かもしれないスキルを使用する。しかし大河の予想を超えた最悪ハズレを引き当ててしまった。



『ユニークスキル:ゆびをふる発動

 タイガは指を振って【サンダーボルト】

 を選択した

 発動失敗:タイガの右足に足枷が装着されました』


「は?」


 スキル発動後大河は今起こったを理解できずあっけにとられた。




________________________________________


ここまで読んでくださった方々、いつもご愛読してくれる皆様ありがとうございます^_^

この作品も皆様のおかげでついに目標の星100個に到達し気づけばpvも3000超える事が出来ました。もう辞めてもいいくらいの達成感です(まあ続けますが°▽°)


これからも投稿ペースを上げて頑張りますので(確約はしません)空いた時間にちょくちょく見に来ていただけるとありがたいです。

よろしくお願いします^o^



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