25話 ようやく冒険者に…なれませんでした(後編)
『というかお前が今まで転生させてきた人たちはどうしてたんだよ』
『さあな、知らん』
『知らんって…門の件といい、お前の担当だった人たちだぞ。なんで担当者のお前が認識してないんだよ!』
『今はワシに語りかけてくる奴がお前だけじゃから対応してやってるがのう、それまでは貴様らが戦争してた時代なんぞは腐るほど死者が来おったからな。相手するのがめんどくさいから耳栓して無視しとったんじゃよ』
『戦争時って…そんな前から異世界転生って行われてたのかよ。というそんなころからやってるのに未だに魔王の討伐行われてないのかよ!』
(というかこいつ、自分の事を崇められるだの敬われる存在だのと抜かしていたが改めて自らの職務を全うする気が微塵も感じられないだが?偉ぶりたいならまず自分の役割果たしてからにしやがれ)
『できれば貴様も無視したいところじゃが死なれては困るからのう特別に聞き届けてやっとるというわけじゃ感謝せい』
『聞き届けてるだけで何のアドバイスもないんだが?どこに感謝する要素があるだよ』
『ワシの貴重な時間を割いてやってるそれだけで国宝ものじゃぞ』
『味のしないガムレベルの価値しかないお前の時間を国宝と同レベルに扱うなんてなんて失礼な。今すぐ全世界の国宝に詫び入れて来い』
(他の神々ならいざ知らずお前の時間なんてほとんど睡眠やらさぼりやらに費やされるんだから大して重要性ないだろうに)
『つまり自分で何とかするしかないということか』
『何を溜息を吐いておるんじゃ。貴様にはワシの授けたとっておきがあるじゃろう』
『とっておき?ああ、あれは基本使わん』
『なんでじゃ?何のために授けたと思っておるんじゃ。こういう時の為のユニークスキルじゃろうが』
(さっきの努力と根性でってアレのことだったのか)
『それを発動成功するまでにどれだけの時間とリスクを要すると思ってるんだ』
『それは気合と根性で…』
『もういいわ!』
大河は念じるのはやめて神との無駄な会話を強制的に終了さた。再び溜息を吐き目を見開くと受付の女性が怪訝な顔で大河の様子をうかがっていた。
「あの…大丈夫ですか?」
大河の身を心配してと言うよりは『接しても大丈夫か?』みたいなヤバイ相手にでも声をかける感じで恐る恐る尋ねられた。
(フリーズした状態含めるとかなり長い間固まって立ち止まっていたことになるからな。怪しい目で見られても仕方ないか)
「ええ、大丈夫です。ちょっとぼーっとしちゃって。あの冒険者の登録料って前借ってできませんか?」
「申し訳ありませんがウチのギルドではそのような行為は原則禁止されております。理由を付けては現金を仮りて、そのまま返却しない冒険者が後を絶たないことがありまので、どのギルドでも基本金銭の貸し付けは禁止されている筈です。」
「それなら新米冒険者でもこなせそうなお手軽な依頼はありませんか」
「………」
大河の身なりをじっくり見てから受付の人が何か言いたげな顔で一枚の依頼のリストを渡してきた。
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☆☆☆ 4月限定クエスト☆☆☆
◯依頼内容
・タケノコの収穫
今年も収穫時期になってきたので人手を求む
○難易度
特に危険性はないため冒険者でなくても参加可能
○場所
それぞれの地区にてギルドから通達
報酬額は収穫したタケノコの総重量と出来にによって比例する。
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大河は目を通した瞬間に喜んだ。
(このクエストなら今のところ戦闘面で不安しかモンスター討伐と違って無難にこなせるだろう)
大河が歓喜しクエストを受けようとしたのも束の間最後の一文を読んだ際にそれらの喜びは消え失せた。
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*尚、収穫時に必要な刃物の類は各々ので持参すること。
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最低限の装備どころかナイフ一本すら持ち合わせていない大河にはとてもこなせるクエストではなかった。
「すいません武器のレンタルとか出来ますか?」
「…先程の金銭的理由と重なり武器の貸し出しも廃止されております」
大河の言葉に驚いた様子で少し間が空いてからマイナは返答した。
「そ、そうですか」
「そもそも冒険者になろうと言う方がなぜ何の装備もしていらっしゃらないんですか」
マイナが呆れたと言わんばかりの態度で指摘するも意見がまともすぎて大河は何も言い返せない。
(ぐうの音も出ないほどの正論だけどその言葉そっくりそのままあのクソ神に聞かせてやりたい)
マイナの言う通り冒険者になるってことはモンスターと戦う事を決意すると同義なのにもかかわらず大河は武器はおろか防具すら所持していない。真面目にやる気あるのかと疑問視され疑いの目を向けられても仕方ないだろう。そのうえ手数料すら持参してきいないなどとマイナからすると『本当に何しにきたんだこの人?』という話である。
(大体大抵の転生者は登録時に料金が発生しなかったり、発生したとしても神から授けられたチート能力とかチート装備であっという間に強力なモンスターを討伐してそれだけで一生暮らしていけそうなった大金をゲットできるものなのだ。それに引き換え…はあ〜)
無意識にポケットに手を入れるがそこには先程手に入れたウソビリ君があるだけで他にもなにも無く、ポケットから取り出した握り拳を何となく開いては閉じてのグーパーを繰り返し、そこには自分には何も無いのだと虚しさを痛感しながらこれまでの出来事を回想した。
(俺はといえばまだ生きていたにもかかわらず勝手に殺され転生された先が上空とかいう前代未聞の場所で転生直後から死にかけた上にろくな資金も装備も渡されておらず転生の特典で貰った…
というか押し付けられたわけわからないスキルのせいで文字通り散々な目に遭い、まだ転生して大して経ってないにも関わらず不遇ポイントを探すとキリがない。そしてトドメと言わんばかりに金がないから冒険者にすらなれないときた。マジでどうしろと?)
「一応他にも一つだけ実行可能なクエストがありますがそちらを受けますか?依頼内容は明かせませんが」
「お願いします!」
大河は提案に一目散に飛び付いた。大河の予想外の反応にマイナはまたも驚いた。
「………わかりました。では受理しますね」
大河はマイナの提案によってなんとか冒険者登録料を稼ぐ手立てを見つけられた。
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