26話 初めてのクエスト
大河は冒険者の登録料を稼ぎに受けたクエストを達成するために依頼人であるボヘムと言うなと白髪の老人共に街から少し離れたと四季山と呼ばれる山に渡されたリュクを背負い手袋を身に着けて登っていた。
山で採れる薬草を中心とした様々な植物がお爺さんの行なっている研究には必要らしくそれらの採取を手伝うのが今回のクエストの内容なのだ道中に聞かせもらっていた。
「すまないね、こんな事につきあってもらって」
「いえいえ別に大丈夫ですよ」
「流石に年なのもあって私1人ではなにかと大変でね。今も山を登るだけでも足にきて一苦労だよ」
「それは大変ですね」
(その割には滅茶苦茶スムーズな足取りで登っているように見えるけど)
「それならいっそ収穫の全てを他の冒険者に依頼して任せてみてはどうですか?」
「そうしたいのは山々なのだが採取する物の種類が豊富で私でなければ判別するのがなかなか難しいんじゃよ。例えば…」
2枚の葉をそれぞれの手に摘んで見せた。
「このナナクサソウなんかも一見同じ物にしか見えないが僅かな色合いの違いや、重ねて見比べなければわからぬくらいの葉の大きさや幹の長さなどで全く別の意味で効能を持っていたりす」
(確かにパッとみじゃなくても違いがイマイチわからないな)
「これらを素人に区別して捜索してもらうのは酷であるからのう。ベテランでも中々難しい。それに…」
「それにそういった事情抜きにしてもここののどかな空気が好きでね。気ままに自然に囲まれながら散策するのもいいものでな」
「それは何か…分かる気がします」
(木々に囲まれているだけに樹木から漂う独特な爽やかな匂いに、ついついひなたぼっこしてしまいそうなほど丁度いい気温と静けさが心地いい。心が洗われていく様な浄化されていくようなそんな感じ…僅か数時間前とはえらい違いだ)
それから大河はボヘムの指示のもと採取しながら採取した植物について色々説明してもらった。初めて目にするそれらに大河も興味を惹かれ次第にハマっていき、 大河の楽しそうな姿にボヘムもつられて嬉しそうな微笑んだ。
(確かにあまり冒険者らしいクエストでないかもしれないけれど別に不満はない。平和だというだけで十分だ。空から落とされたりスキルで槍やら雷やら隕石やらが降ってきて命からがら逃げたりすることも、お尻にボールペンやら万年筆やらが突き刺さることもない。他の人にとっては当然かもしれないが俺にとってある種天国に近い。普通ってなんて素晴らしのだろうか。それに…)
安全に行動出来る事の喜びを実感すると同時に大河は老人のボヘムと行動をともにする内に別の感情が湧いてきていた。
(初めて…いや、あのお婆さんに助けられて一緒に過ごして以来か。この穏やかで暖かな感じ。今朝別れたばかりなのに色々あったせいで随分昔のことのように感じるな)
祖父母を知らない大河にとってそれは特別なもので、不思議な感覚に包まれている気分だった。
山に入ってからも収穫を続け。数10種類にも及ぶ植物の採取を行っていった。見た目が似ているものが多く、ボヘムの言う通り彼がいなければ見分けがつかないものばかりだった。
ある程度採取すると腰掛けられそうな木のところで休憩することになった。少し汗をかいているところに風が涼しさと森の特有の森林の匂いと数々の薬草の匂いを運んでくる。
大河はゆっくり息を吐きながらここでしか味わえないそれらを堪能しているとお爺さんが魔法で沸かしたポットからお湯をコップに注いで手渡してくれた。
「ありがとうございます」
「いやいやこちらこそすごく助かったよ。この年になると1人で採取するのはとても大変でね。クエストを出しても地味だからとか報酬が渋いとかで誰も受けてくれなくてね。たまに受けてくれる人が現れても予想してたよりにめんどくさいからとかですぐ帰る子が大半でね。仮に最後まで残っていてもいやいややってるのが丸わかりみたいな態度でやる子ばかりでね」
(まあ冒険者になるつもりだったのがやってるのが薬草採取みたいな感じだからな。全く分からなくもないな)
「でも君は嫌がるそぶりも見せず寧ろ新しいものを発見するのが楽しくてたまらないみたいな顔でしてくれるもんだからこっちも久しぶりに教えることの楽しさを味合わせてもらったよ。いつぶりだろうかこんなに気分が高揚したのは」
「まあ実際楽しかったですからね。見たこのない物を発見して触れ合う新鮮さは。種類と同じくいろんな効能があることも教えてもらいましたし、とても有意義な時間でした。そうう意味ではまるで興味なくただクエストをこなすためだけに淡々と作業をこなしていた人たちと比べると生き生きと映ったかもしれませんね」
(それにしても同じ老人でありながらこの人は頑張って自ら山に足を運び研究材料を調達しに来ているというのに、あのクソ神は布団からすら出てない上に自分がめんどくさいとかいう理由で勝手に人の人生終わらせる奴だからな。
まったくどちらが人の上に立ち模範となるべきなのやら。いや、あのクソ神とこの人を比べては失礼か。それにこの穏やかな雰囲気であの神のことを思い出すのはやめよう。新鮮な空気が腐る)
それからもお茶を飲みながら大河はボヘムと楽しく語らった。
「それじゃそろそろ帰ろうか」
その日はごくごく平凡でだけでとても平和な楽しい1日で終わる…筈だった。大河の前に現れる筈のないモンスターが現れるまでは。
(なんで…こんなところに)
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