27話 ユルゲーが無理ゲーになりました
それは大河達が下山しようとした時に大きな足音もなく唐突に目の前に現れた。見るから強力で凶悪そうな姿をしたモンスターの出現によって先ほどまでの穏やかでなごやかな空気は瞬く間に消し飛んだ。
ーーーーーーーー数時間前ーーーーーーーー
「詳しい内容はお教えできませんが指定の場所に向かっていただき、行動を共にする事になっている依頼者の指示に従ってもらう形になると思います」
「あの、クエストを行う際に必要な装備や道具なんかは…」
「それでしたら依頼者の方から特別な道具を準備しておくと言われてましたで特に必要ありませんよ」
「そうですか」
「まぁ討伐クエストではありませんし、場所的にも今の時期はモンスターと戦う事はまずないでしょう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(この状況はあのクソ神の呪いか?そうとしか思えないくらいに間が悪すぎる。あのクソスキルは使いたくなかったからモンスター討伐はないって言われて安心してたのによりによってこんな強キャラぽいモンスターにこんなタイミングで出くわすとは…)
「オオオーー!!」
ヒートベアーが大きな咆哮を上げると耳に響き渡る雑音と共に強風が大河達を襲った。大河は咄嗟にボヘムの背中に手を回し吹き飛ばされないように支えその場に踏みとどまった。
咆哮が止み安堵したのも束の間、ヒートベアーは大河達目掛けてもの凄い勢いで急接近してきた。あっという間に近づかれ、大河達の目の前で立ち止まった直後に状態を起こして腕を振り上げて鋭い爪を光らせながら2人目掛けて振り下ろした。
(ヤバイ!)
大河は咄嗟にお爺さんをつかんで横へ飛んだ。ヒートベアーの攻撃は大河達ではなく後ろの木に命中し、いいともたやすくなぎ倒された。
(くっ!かなり危なかったな。我ながらよくよく避けられもんだぜ)
大河攻撃を回避して安心していると早くも2撃を放ってきて次もボヘムを抱えながら回避した。
(なんでこんな時に!…いや、今はそんな事考えてる場合じゃない。落ち着いて冷静になれ。見た感じ仁王立ちしてる時は3メートルも超えそう巨体ではあるけど攻撃の射程はそこまで長くない。けど威力は…いわずもがなだな)
予想だにしない突然の事態にパニックになりそうだった心をゆっくり息を吐きながら自分に言い聞かせる様に必死で落ち着かせた。
(さて、状況を整理すると敵は恐らく攻撃型のモンスターで攻撃速度はかなり早いがモーションが大きいからなんとか反応して避けられる。だが破壊力は桁外れだ。攻撃当てられるとほぼ即死。それに対してこっちは山の登り降りが堪えると明言していてる老人のボヘムさんに駆け出し冒険者にすらなれていない俺………うん、無理ゲー)
目の前のモンスターは熊型のモンスターで実際の熊と同じく巨体の割に手足が短く、今現在の位置は山の頂上付近に位置していた。そしてヒートベアーは大河達よりも上の方から降る形で目の前に現れた。なので逃走するとなると結果的に下山することになる。登りが早いが降りが遅い熊相手には有利な立ち位置だった。
(本当は動かずにいて何事もなく去って行ってくれるのが一番だったけど遭遇した途端に吠えて襲いかかってきた辺りその可能性は吹き飛んだしな。この前の猿から逃げて追いつかれなかった事から考えても恐らくこの状況なら逃げ切れる可能性は充分にあると思う。けど…)
大河は悩んだ。確かに1人であれば逃走する事も可能だったが、それは老人であるボヘムを見捨てて一人逃げればの話である。ボヘムも老人にしては動ける方ではあったがそれはあくまで老人にしてはであり、ボヘムが走ってヒートベアーから逃走するのは大河にとって現実に思えなかった。
この時点で大河は決断せねばならなかった。1人生き残る為に依頼人を見捨てて逃げ延びるか、違う選択をするのかどちらかを。
(まだ顔を合わせて数時間の相手。又はあの神と引けを取らないくらいに性格の悪すぎるフランスパンやモヒカンヘッドのような相手であれば迷うことなく置き去りにすることができたであろう。でも…)
「大河君。すまんがワシを置いて…」
ボヘムが言い切る前に大河は手で静止た。同時に恐らくボヘムが自分を見捨てるように発言しかけた事によって大河の決心はついた。
(そうだよね…やっぱり)
そして振り返ってボヘムに満面の笑みで言うのだった。
「帰りましょう。2人で」
少しだけ悩んだが大河にとってボヘムはお婆さんに次いで自分に優しく接してくれた人間であり、早々に見捨てて一人逃げる選択をすることはできなかった。それにここで我が身可愛さにボヘムを見捨ててしまってはあのろくでもない神と同類に落ちてしまう気がしてそれだけは何としても避けたかった。
ーー本当に助けていいの?良くない事が起こるかもよーー
突然何かの声が大河に語りかけてきた。
(いいも何もここで見捨ててしまったらその時点で最悪以上の結末なんて到達しようがねーよ)
大河の決心は固まった。しかし問題は一人で逃走しないとして【ではどうするのか?】ということだった。仮にボヘムを逃がすにしてもゲーム序盤に出てくるスライムのような初級モンスターなら兎も角、目の前の凶暴なモンスターを足止めできる力は今の大河にはない。かといってまともな戦闘で勝利する力などもっとない。となると大河のできる選択しは結局一つしかなかった。
(やっぱりアレを使うしかないのか)
ボヘムを死なせずにこの場を切り抜ける方法。それはあの憎っきユニークスキルを使うことだけだった。
(仕方ない…よね?)
何故か大河は薄っすらと笑みを浮かべるのだった。
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