24話 ようやく冒険者に…なれませんでした(前編)
大河は警備所を出てから隣の冒険者ギルドへと目を向ける。警備所の建物が赤一色の異質な壁色のため、茶色をベースとした一般的な建造物の冒険者ギルドを見比べてしまうとどうしても地味に見えたが、その分『この施設は普通で隣と違って特におかしな人はいませんよ』と訴えているように感じられ少し安堵した。
ギルドの中へ入るとかなりの数の冒険者と思わしき風貌の人たちがおり、受付にもかなりの数が並んでいて大河も列の後方へと並び順番を待った。
自分の番を待っている最中、何人かの人が大河の事をいぶかしげな目で見ながらひそひそと話をしていた。
(もしかしてフランスパンに誤認連行されているところを目にしていた人たちだろうか?まずいな。言葉を交わす前から第一印象最悪だなこりゃ)
大河はスコーンに無理矢理連れていかれたせいで只でさえ散々な目に遭ったというのに更に追い打ちと言わんばかりの無数の視線にこの先の住人とのコミュニケーションに不安要素しか抱けなかった。
大河は早くも疑心暗鬼になりそうな中、自分の番となり前に出た。
「冒険者ギルドへよう…こそ…」
受付嬢のお姉さんが大河を見るなり固まってしまった。まるで宇宙人でも目にしているかのようなありえない者を目の当たりにしてしまった感じだった。
(まさかこの人の耳にも俺の間違った悪評が届いてしまっているのだろうか)
少しして我に返って大河の視線に気づいた受付のお姉さんは軽く咳ばらいをした。
「も、申し訳ございません。お客様が少々その奇抜…変わった格好をされておりましたのでつい動揺してしまって」
(ああ、そういえば今の今まで忘れてたけど俺の恰好学生服だったな。しかも入学式当日だったから学ランだし。制服だけでも変わってるだろうに上下とも黒一色の学ランじゃそりゃ目立つし、俺の前いた世界じゃごく一般的な正装でも、この世界の人から言えば珍妙な恰好にしか見えんわな)
大河が一度振り返ると順番待ちの人とは別の視線が複数大河に向けられていた。
(確かにこの視線は不審者を見るような疑いをかけるものではあるけど、犯罪者を見るよう蔑む視線ではないしなな。もしかしたら陰で言われてたのは連行云々の件よりこの服装が原因だったのかもな)
「失礼しました。私はギルド職員のマイナ・カレットです。それで今日はどういったご用件でしょうか」
「冒険者登録をしたいのですが」
大河の言葉を聞くなりお姉さんは再度フリーズした。
(あれ?今度は何だろう)
「すいません。もう一度お伺いしてよろしいでしょうか?」
「冒険者登録をしたいのですが」
「………」
(もしかして場所間違えたのか?でも教えられた通りに来たし、何よりさっきこの人が
『ようこそ冒険者ギルドへ』って言ってたよな?)
「わ、わかりました。ではまず登録手数料を…」
「登録手数料?」
ついて早々に予期せぬ言葉に一瞬で大河もフリーズした。そして無意識にズボンのポケットを探すものの何もなく、またしても脳内フリーズし、機能が戻るまで時間を要した。
(登録手数料ってなんだっけ?ああ、あれか。登録時にかかる代金の事かあははははははは…じゃなーい!あのクソ神の奴…本当に無能にも程がある)
『崇めたつ舞われている神を冒涜するとは相変わらず無礼な奴じゃのう。しかもなんじゃ、わざわざ様子を見に来てやったらまだこんなところにおるとはお主は亀か?門についてから結構な時間が経過したと思ったがまだ冒険者登録すら終えておらんかったとは。人の事を棚に上げてとはまさにこのことじゃのう』
大河が理解不能に陥っていた時、脳内に響くように憎き声が聞こえてきた。
『貴様はクソ神!というか直接話さなくても俺の言葉聞こえるのかよ』
『わざわざ口に出さずとも貴様が強く念じれば言葉は伝わるわい。あれだけきちんと説明してやったのに覚えておらんとはのう。貴様こそ無能じゃな』
『一度たりともそんな説明受けてねーよ!というか…』
『長話して疲れたのでそろそろ帰るわい』
『まだ30秒も会話してねーよ!お前の体感時間どうなってんだよ!』
『激務で疲労が溜まりに溜まっているワシを労って少しは休ませようと思えんのかお前は』
『連続でツッコミたくなるようなことを言うんじゃない。そんなことより冒険者登録時に金がかかるってどういう事だよ!全然聞いてないぞ。冒険始める前から既に詰んでるんだが?』
『なんじゃそんなもんが必要だったのか?知らんかったわい』
『おおーい!なんで地質案内役みたいなポジションのお前が全く把握してないんだよ。これじゃ魔王討伐はおろか冒険者にすらなれないんだが』
『そこはほれ、お前さんの居た世界の格言を実行すれば…』
『格言?何だそれ』
『前にもワシが親切に教授してやったじゃろうが。あらゆる状況下でも気合いを入れて諦めず不撓不屈の精神で挑戦し続ければ何とかなる。そう、努力と根性で』
『またそれか!いい加減にしろ。それでどうにかなるわけないだろう!』
『貴様らの世界の偉人が口にした言葉をお前は信じないのか?実際にそれらによって不可能と思われていた事を可能にして成功を収めてきた事実をお前は無視するのか?お前さんの先達が残した遺産のような信念を蔑ろにするのか?人間であるお主自ら人の可能性を否定するのか?』
(どう考えても精神論で解決出来そうにない事を否定しただけで何でまるで『肯定出来ないお前が悪い』みたいに言われなきゃいけないんですかね?しかも長々のご高説付きで)
『それじゃ何か?ここで強く念じたりして諦めず不撓不屈の精神で祈ったり願ったりしていれば金が手に入るんですかね?』
『そんな事で金をポンと手に出来るわけなからろう?馬鹿なのかお主』
(コ、コイツ…本当に…)
大河は今すぐに直接口に出して怒鳴りそうになったが一応人前であるため、怒声を飛ばしたい気持ちを押し殺して、ゆっくりと息を吐きながら怒りを鎮めた。
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