22話 幼女型人形

 スコーンとモヒ・カーンの2人が罵りあっていると父親達が大河に話しかけてきた。


「見苦し過ぎる失態を見せてすまない。私はシュヴァルド・ベーカリー、警備隊の総司令官を務めさせてもらっている。隣の男エイト・カーン、私の副官といったところだ。良ければ名前を教えていただけないだろうか」


「タイガです。この街には今朝方たどり着きました」


「そうか、タイガ君ようこそへこの都市へ。そして…」


 ゴーーン


 父親達はそれぞれの息子に人の頭からはなっ鳴ってはいけない轟音を響かせるレベルのゲンコツを落として、後頭部を鷲掴んで共に大河に向けて土下座していた。


「我が愚息達のせいでこんな事になってしまい誠に申し訳ない」


「警備部隊という庶民の安全を守る立場にありながらこの様な許されざる蛮行を行った事、親としても上官としても謝罪させていだく。本当にすまなかった」


(何でこんなまともな人格者の父親達からあんな宇宙人みたいな2人が産まれたの育ったのか甚だ疑問だ。それはさて置き…)


 親や上官としての立場上、誠心誠意謝罪しなければいけない気持ちは理解できるが罪の無い2人の人間が立場だけを理由に自分に土下座しているのを見ていると嫌でも罪悪感が湧いてきた。


「お2人に罪はありませんのでどうか2顔を上げてください」


 大河は罪の意識から親達には土下座をやめるよう促した。ちなみに親だけに顔を上げるように言ったのは別に2人を恨んでいたり憎んだりしているから反省のために頭を下げ続けていろといった意味ではなく、無理矢理頭を下げさせられる直前に父親たちの強烈なゲンコツとアイアンクローによって目玉が飛び出そうなほど眼球の開いた表情が目に焼き付いてしまい気持ち悪すぎて今は顔を合わせたくなかったからである。


「それでお前らなんであんなやり方で金を集めようとしていたわけ?役職的にもかなり貰ってるだろうし、家柄的には親父さん達を見る限りどう見ても家庭が貧困暮らしの貧乏には見えないんだけど」


「それは…そう、部下たちの給料を値上げして部隊の活性化を図ろアババババババババ!」


「日頃責務に励んでいる隊員達にボーナスでもとうぎぎぎぎ!」


(これだけ何度も電流を浴びていると言うのにこの2人から正直に話そうと言う気配が微塵も感じられないのだが)


 2人の両親は頭に頭を抱えため息をついていた様子を見て親になったことのない大河にもその気持ちは嫌でも察することができ、同情せずにはいられなかった。


「それで本音は?」


 今度は2人共口をつぐんだまま喋ろとはしなかった。するとスコーンパパが口を開いた。


「スコーンよ、まさかを集める為ではあるまいな」


 父親の声に反応してスコーンはビクッと体を震わせた。


「アレとは一体何ですか?」


「着せ替え人形という物だ。それも幼女型の」


「着せ替え…人形?」


 大河は頭がどうにかなりそうだった。


(本来人の趣味に対してどうこう言うのは間違っているかもしれないが、警備員が冤罪吹っかけてお金毟り取ろうと汚職に手を染めた理由がこれだと思うとどうしても…)


「そんな物の為にこんな事を?」


「そんな物の為にだと!貴様この崇高な作品を愚弄するのか!」


 スコーンはやたらと激怒した後に懐から何かを取り出した。それは今話に出ていたであろう掌よりも一回り大きいサイズの金髪幼女型の人形だった。


(俺はこんな人形集めの為に手錠をかけられた上に連行されて詐欺られそうになったのかよ)


  大河これまでになく怒りのボルテージが急上昇して今日何度も浮かび上がってたであろう青筋が自分の額にクッキリ浮かび上がるのを実感した。


(本当にどうしてくれようかこのフランスパンもどきクソコレクターは)


 怒りで今すぐにでもどつき回したい衝動に駆られそうになる大河だったがそんな思いも次のスコーンのセリフで消し飛んだ。


「この幼すぎる顔つきに、未成熟なボディーライン。練り上げられたデザイン。服も取り外し可能で着せ替えによって様々なコディネートも可能。肌の質感も髪のきめ細かさも人のそれに近いレベルで造られていて病みつきにさせてくれる。なんと素晴らしい芸術作品なんだ!」


(ヤベーこいつが何言ってんのか理解したくない。真面目に聞いてなくても頭が痛くなってきた)


 大河はスコーンが熱く熱弁している最中ずっと頼むから電流が流れて嘘だったと思わせてくれと願うものの、ウソビリ君はまったく反応する気配を見せず、大河は途中からなるべく心を無に徹してやり過ごしざる得ないくらいに精神的に追い込まれていた。







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