14話 クソ神の同類1号、2号発見

 大河はスコーン・ベーカリーの予想外の問いに唖然としていた。


(不審者扱いで連れてきたのに何で最初に出てくる質問が俺の所持金なんだ? 大抵こういう場合は名前とか出身地とか、少し飛ばして街に来た目的とかを聞くのが普通じゃないの?なんで拘束した相手の金なんて………あ)


 大河は何となくではあるが理解した。いや、理解してしまった。目の前のスコーン・ベーカリーという警備隊長で『街の治安を守っている』とか公言し選ぶっていた人物がその言葉と地位に反する考えをしていることを。


「大きな声では言えんが20万オリス渡せば我々の勘違いだったということで解放してこの街に居ることを許可してやるぞ」


(やっぱりそれか。というかこの世界のお金の単位はオリスって言うのか。でもまあ、それよりも…)


 出来れば外れてほしいと思っていた予想が見事真ん中を射抜く様に的中してしまい大河は呆れる事しかできなかった。


「仮にも治安を維持し秩序を守る立場にありながらそのような行動はいかがなものなんですかね」


「青いなお前は。汗水流してクソ真面目に働くなんてめんどくさいし馬鹿らしいだろう?それよりもこうやってこういう取り引きをすればこちらは金を奪…徴収できてお前らもこの街で自由に行動できる。な、ウィンウィンの関係だろう?」


(今すぐあんたの同僚とこの世界の一生懸命働いている人間にスライディング土下座で謝ってこい。というか今この人奪うとか言いかけたな。ウィンウィンとは名ばかりの自分の利益の事しか考えていない守銭奴だな)


 大河は無駄だろうとは思いつつも一応抗議してみた。


「こんなことして許されるんですか」


「お前はまだ世間を知らんお子様の様だから理解できないかもしれないが特別に教えておいてやるよ」


(お子様って…見た目はそんなに歳は離れてないと思うけど、意外とそんなこともないのか?)


「どんな不正もバレなければファインプレーと」


(あ、開いた口がふさがらねーよ。ここまでくると逆に凄ーな。ここまでのゲス発言をさも自慢げに言うこの度胸。こんな典型的な小悪党を実際に目にしたのは初めて…じゃないな。あのクソ神がいたな。つまりコイツはさしずめ人間番クソ神1号と言ったところか)


 大河がゲス過ぎて一周回って変な関心をし終えた後で、先程のやり取りに全く入って来ようとしなかったモヒ・カーンの方を向いて尋ねた。


「そちらの人はこの暴論とも言える発言に異議を唱えたり、正当と思えない行動を止めないんですか?」


 大河はスコーン・ベーカリーモヒ・カーンに訴えかけた。


「何故止めねばならないんだ?」


(今まさに隣であんたの同僚が汚職にどっぷり手を付けているというのになんでこの人もこんな自然に疑問顔ができるんだよ)


「分け前は半分ずつだが、門番をしているだけで相手にもよるが結果的に勝手にお金が歩いてやってきてくれる。こんな素晴らしい商売は他にないというのに」


(こ、この男もなかなかにクズイな。仮にも警備部隊の隊員でありながら賄賂を受け取ることを商売とはっきり言ったぞ。しかもそれが副隊長って言うんだから救えねーな。


薄々分かってたけどやっぱりこの男もフランスパンの同類か。まさに類が友を呼んでしまって引き寄せられてしまったわけだな。そして早くも人間版クソ神2号を発見してしまったな)


「お前がいる限りこの秘密は漏れることはないからな。


「ああ、漏洩しそうになっても俺が必ず死守してやるぜ。


(所々省く必要があるが、個々のセリフだけを聞くと素晴らしい友情の美談だと錯覚してしまいそうになるな。まあ中身は利己のみで塗り固められただけの只々ゲスすぎる絆だが)


「さあ今すぐ20万オリス払えば釈放してやるぞ」


「………」


 大河は何も言わず口を噤んだ。


「仕方ない奴だな。それなら20万からまけて15万オリスならどうだ!」


「………」


「ケチな奴だな。それなら半額の10万オリスならどうだ」


「………」


「ええい仕方ない!特価価格の5万ならどうだ!」


「………」


 スコーン・ベーカリーがまるで応じようとしない大河に腹を立てながらもどんどん値段を下げ続けるが大河は一向に口を開く気配をみせなかった。


「クソ、この泥棒野郎が!3万だ!3万オリスならいいだろう」


(あんた泥棒という言葉の意味を今すぐ辞書引いて調べてこい)


「おい!いい加減にしろよ、1万オリスまで粘ろうってのか?そうはいくか。流石にそこまで値切りはしてやらねーからな」


 大河はその言動にほとほと呆れながらもようやく重い口を開いた。


「勘違いしておられるみたいですけどそもそも俺はオリスとやらは一つとしてして持ち合わせておりませんよ」


「「は?」」


 2人があまりに間の抜けた声を上げた後、3人共喋らないまま一時の静寂が訪れた。





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