10話 優しいお婆さんに助けられた
大河が目を覚ますとそこには見慣れない木造建ての古い天井が視界に映し出された。視線を下げると自分が布団を被っているのが見えた。それを捲ると所々包帯が巻かれているのがわかり、恐らく倒れたあの後に発見した誰かが自分の家か何処かに運んでくれて処置してくれたのだと理解した。
「運が…良かったな。痛っ!」
起き上がろうとすると体中から激痛が走り顔を歪めた。倒れる寸前の全身の骨が割れるような痛みに比べたらまだ軽かったが、その時は大量にアドレナリンも出てた事によって通常時よりは痛みが感じにくかったのもあって、正常に近い今の大河の精神状態では痛みが誤魔化せず倒れる寸前に近いレベルの痛みを感じていた。
大河が体の激痛に苦しんでいると突然部屋のドアが開き一人のお婆さんが現れた。
「ああ良かった。目が覚めたみたいで。あなたが倒れてたから家に運んで看病していたのだけれど1日中ずっと寝たままだったからもう目を覚まさないんじゃないかと思って心配したわ」
(い、一日中!いや、あれだけの重症で死んでいないだけでも奇跡。更に助けて手当までしてもらえてるなんて運が良かったとしか言いようがないな。スキル運が悪すぎる分が返ってきたのだろうか?)
「畑の様子を見に行ったら殆ど一面焼け野原になっていて元の面影もない状態でね。突然こんなことが起こるだなんて怖いわね」
(つまりあれか?俺はこの見ず知らずにも関わらず助けてくださった心優しいお婆さんの畑を木っ端みじんにした挙句、あろうことか面倒まで見てもらったってことか)
大河は背中から冷や汗が流れるのを感じ、同時に彼の心に罪悪感という名のナイフが深々と突き刺さる。
(すいません…それ俺のスキルのせいなんです)
「でもあなただけでも無事でよかったわ。一時はどうなることかと」
お婆さんの優しい言葉が深々と心にしみわたると同時に罪悪感ナイフがこの上なくブスブスと何本も突き刺さり、大河は耐えきれずにカミングアウトした。
「すいません。お婆さんの畑を駄目にしたの…俺なんです」
お婆さんは大河の言葉を聞いて一瞬ポカーンとするも少しするとクスクスと笑いだした。
「まあまあそんな嘘なんてつかなくていいのよ?あんなことが人にできるわけないでしょう。あれは天災だから仕方のない事だったのよ。寧ろこの家に落ちず今こうして生きているだけでも感謝しないと」
大河は決死の思いで告白するもお婆さんは冗談だと思い込んでまるで信じることなく笑顔のままだった。
事情を知らないお婆さんとしてはこの家にまで被害が及ばなかった事でとりあえず良しと思えるものの、大河として順序は逆だが助けた恩を仇で返してしまったような気分になり、なんともいたたまれない気持ちになった。
すいません。俺がスキルを使わなければそもそもあの迷惑極まりない隕石は落ちてこなかったんです…
お婆さんへの罪悪感気持ちで一杯の中、大河はふとある重大な事に気付いた。
逃げている間は夢中で気がつかなかったけどもしかしたら他の家が被害にあってるんじゃ!?
そう考えだすと今までとは比較にならない程の罪悪感で押しつぶされそうになり、聞くのを恐れたが聞かないわけにもいかず恐る恐るといった感じで口を開いた。
「あの…畑付近で暮らしていた方々は…いらっしゃったんですか」
「ああ、それはね…」
時間にして数秒もないくらいの間。しかし僅かな時がまるで永遠と思える程にゆっくり流れた。大河は今か今かと待つ間、心臓を握りつぶされそうな鈍い痛みと圧迫感で精神的に押しつぶされそうになっていた。
「あの周辺はおろか家の付近にも住んでる人は居ないよ」
大河は安堵から胸をなでおろす。これまで体験した出来事の中で過去最高に緊張した出来事だっただけに、まるで身体を動かしていないのにかなりの汗が大河の体から吹き出していた。
「貴方も大変な目にあったのにそんなに他の人の心配ができるなんて優しいのね」
別に決して優しいからとかそんな理由でないのです…
大河は口に出来ない言葉をそっと胸にしまい込んだ。
「そんな事より今ご飯をもってくるから食べなさい。ずっと寝込んでておなかすいてるでしょう?」
「いえ、大丈夫ですか「ぐ~う」……」
「ふふふふ、身体の方は正直みたいね」
「すいません」
「いいのよ気にしないで食べなさい」
1日中寝込んでいたことにより体は栄養を欲していても多大な迷惑かけて看病までしてもらった挙句に飯までご馳走になるなんて図々しいことなど精神的にとてもできそうになかったが空気を読まない腹の虫が鳴ってしまい頂くほかなくなってしまった。
お婆さんが大河の寝ていた部屋から出て少しすると土鍋とお茶碗をトレイに乗せ持ってきた。そして中のお粥と思われる物を茶碗に注ぐと手渡してきた。大河は受け取ることに抵抗感はあったが受け取った。
くっ、このご恩は必ず返します!
罪悪感を感じていたがスプーンを握るとあることに気付いた。
そういえばこんな風に誰かに飯を作ってもらったのなんていつ以来…いや、初めて…だな…
そんな事を思いながら何気なくスプーンを握ってみた。すると鉄製のスプーンが”ぐにゃり”といとも簡単に曲がってしまった。
「まあまあ、よっぽど力が強いんだね。別の物を持ってくるから悪いけどまた待っててね」
「あ?あっ、すいません」
大河が謝罪をした時にはもうお婆さんの姿はなく1分もしない内に新しい物を持ってきてくれた。大河は今度は壊さないように慎重になるべく力を入れずスプーンを握った。壊れなかった事に安堵したらスプーンですくって粥を口に運ぶ。味そのものは特別でもなんでもない普通のおかゆだったのだが、しばらく食べ物を口にしていなかったのもあって普通のお米ですら甘く感じられた。
しかしそれ以上の衝撃が彼の体に流れた。初めて食べたにも関わらず大河にはその粥が作り慣れたような素朴な味でお袋の味と言われている特別なものに感じられた。何より自我を持ってからは自分でしか調理してこなかった大河にとっては誰かが自分の為に作ってくれたというだけで暖かいものに感じられ嬉しさから自然と涙がこぼれた。
「おや?どうかしたのかい」
「いえ…ただ、嬉しく…つい」
「そうかい。まだまだおかわりあるから沢山食べな」
「ありがとう…ございます」
大河は久々でああり初めてでもある食事とお婆さんの優しさを噛みしめるのと同時に自分のやらかしてしまった失態を必ず挽回するとひっそりと胸に誓うのだった。
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