11話 後始末

 食事を終えてお婆さんが部屋を退席すると大河は神に話しかけた。


「おいクソ神、起きてるか?というか起きてなくても起きろ。応答するまで呼び続けるからな」


『なんじゃ騒がしいな。ワシは忙しいのじゃ、ゆっくり寝かせろ』


(寝ていたくせに忙しいとはこれいかに。こんな戯言口に出来るのはどの世界探してもきっとこいつだけだろうな)


「そんなことはどうでもいい。あれからまたいろいろあって死にかけてな」


『なに、また死にかけたのか?貴様つくづく弱いのう。もっとましな奴を選ぶんじゃったな』


(さっきのお婆さんが善意の塊というか聖母みたいな人だっただけにその直後にこいつと対峙するとこのクソ神の自分勝手なところが一層際立つな)


 大河は神が身勝手な化身である事を再確認にすると同時に、先程までのお婆さんとの何とも言えぬ温もりの余韻が消し飛ばされ自分の日常が基本この理不尽するぎる世界であると嫌でも痛感させられた。


「ちげーよ!そもそも死にかけてんのもお前のミスとお前の与えた駄目スキルのせいだろうが」


「なんじゃと!この完璧なワシががいつミスを起こしたというんじゃ」


(こいつ…あれだけ色々やらかしておいてよくまるで何もなかったかのように忘れられるな。どんだけ自分に都合のいい頭してんだよ。ほんとさっきのお婆さんの爪の赤を大量に煎じてクソ神の血を含むすべての水分抜いてから飲めるだけ飲ませてやりたい)


「転生時早々に上空なんかに放り出されて死にかけた件だよ」


「ああ、そんなこともあったのう」


(仮にも自分のミスで危うく殺しかけたってのに全然責任感じてねー!というかついさっきの事…じゃないか。お婆さん話によるとあれからもう一日たったんだったな)


「まあ、あんなことはよくあることじゃ。気にするな」


(どれぐらいの高さだったかを知らないが、上空からパラシュートも無しで落とされる紐なしバンジージャンプみたいな即死級クラスの出来事が日常茶飯事みたいによくあってたまるか!)


「まあその件は今はいい。俺が聞きたいのはあのスキルのせいで畑が一面焼け野原になってしまったんだが、スキルで焼ける前に戻せるのか?」


『まあ可能じゃな』


「そうか…よかった」


『そんなことより魔王討伐は「なら行くか」おい!人の話を聞かんか』


 大河は聞きたいことは聞けたので耳障りな神の声は無視して会話を無理矢理切り上げた。大河は痛む体を向きやり起こして引きずりながら外へ出る。途中お婆さんに止められたが少し散歩してくるだけだからと無理言って家を出た。それから焼け地へと出向きスキルを使いだした。


 その日以降、ひたすらスキルを使い続けて畑を元に戻す日々が続いた。スキルによって雨の代わりに槍が降る日も、雪の代わりに砲丸が降る日も、あられの代わりにナイフが飛んでくる日もスキルを使い続けた。これまで以上になかなか引き当てられず来る日も来る日も使い続けながら大河はお婆さんの家で寝泊まりし、お婆さんとの平凡だが温もりに満ちた日々を過ごした。


 そしてお婆さんに大河が助けられてから約1週間たった頃にようやく引き当てることができ畑は元に戻った。

 お婆さんにはすごい魔法使い様が元通りにしてくれたと嘘をついた。そしてその頃には歩けるようになっていたしこれ以上お世話になるのも心苦しいので少し名残惜しいがこの家やお婆さんとお別れすることを決めた。


「お婆さん短い間でしたがお世話になりました」

「もう行くのかい。まだけがも治ったばかりだろうに。ずっとここにいてくれてもいいんだよ」


 相変わらずお婆さんの優しい言葉が大河の胸に沁みた。


 (なんでこのあ婆さんは立派な人格者なのにあのクソ神は…今すぐにも立場切り替えた方が世の中のためだと思うんだけどな)


「お気持ちは大変うれしいですが身体は本当に大丈夫ですし、それに俺にはやることがありますから」


(世界の為にもあのクソ神を断罪するために魔王を討伐しなければならないんです…とは言えない)


「そうかい。お前さんが来てくれてよかったよ。きっと君に導かれて魔法使い様もこの地に足を運んでくださったんだろうね。ありがとうね」


(違うんです。自分が破壊し尽くしてしまった土地を元に戻しただけなんです。お礼を言われるようなことでは全然ないんです)


「元気でね。いつでも遊びにおいで」

 

「はい。お婆さんもお元気で」


 大河は別れを惜しみながらもお婆さんに教えてもらった街の方向を目指して歩き出した。大河は異世界生活2週間目にしてようやく冒険者になるための一歩を踏み出し始めたのだった。


















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