9話 大河は友情(幻)を失う

 大河は緊張感のない笑みを浮かべながらキングマネールとの友情が芽生えたと勝手に思い込み、それが勘違いとも気付かずに歓喜していた。


「お前のお陰で俺が生きる気力を取り戻して嬉しいのはわかるけどそんなに興奮すんなって」


「キキー!(嬉しいからじゃねー!)」


「ほらほら、いつまでもこんなところにいないでそろそろ隕石を止めに向かっていった方がいいじゃないか?」


「キキ―!(誰が行くか!)」


「俺との別れを惜しむ気持ちはわかる。俺もここでお前と別れなければならないのは残念だがそろそろもう時間だ。さあお前の決心が変わらないうちに早くアレを止めに行くんだ!」


「キキ―(お前がこの事態を招いたんだから寧ろお前が俺らの盾になれ!)」


 大河が生きる気力を取り戻し始めた事により脳内妄想は徐々に晴れていき、キングマネールの表情が大河視点で笑顔で語りかけていてくれたものから突然怒声を浴びせていると思われる激昂した表情に豹変したように思えた。


 当然のことながらキングマネールの言っていることなど通常状態になった大河にはわからないが、雰囲気から何となく怒っていることとジャスチャーからある程度は察していた。


 そして大河は先程まで笑って『俺これからお前の為に死ぬぜ』みたいな感じだったキングマネールが何故か急に怒り出しているのを感じて恐ろしく見当違いの方向に悟った。


 こいつ、さっきまであんなにかっこいいこと言ってたくせにいざ死が近づき怖くなったから俺に盾になれとでも迫っているのか?それとも俺を励ましてくれたあれはあれを油断させるための演技だったのか?くそっ!お前の事信じてたのに


「俺は…俺はお前の事を信じていたんだぞ!それなのにそれなのに寸前になって裏切るなんて酷じゃねーか。お前の俺に対する友情はそんなもんだったてのか…よちくしょう!」


 モンスターとはいえこの世界で初めて芽生えたと思われていた友情があっさりと散り、号泣しながら嘆きうったえる大河。


 しかし友情など空っぽ交わしていないキングマネールからすればこれほど煩わしく押し付けがましい有情&身に覚えのない訴えはないだろう。


「キキィ!キィキキキー!(何わけわかんないこと言ってんだよ!俺とお前のこれまでのやり取りのどこに友情を交わすようなところがあったってんだ!)」


「さっきお前が芽生えさせてくれたを友情をお前が否定するのか!」


「キキーキィキキ!(そんな存在すらしてねー幻の空想話なんかするんじゃねーよ!)」


 大河は大真面目に訴えかけるがキングマネールからすればこじつけにもいいとこで大河への友情など当然微塵も感じておらず、感じていたのは友情などではなく支離滅裂な事を言う大河の狂気だけだった。


「確かに俺とお前の友情は幻のようにはかなく散ってしまったな。よくわかったよ、お前が俺との友情を踏みにじって自分だけ助かろうとしたクソ野郎になり果てたと」


「キキーキィキキー!キキキキキ!(勝手に勘違いして都合よく解釈、美化して感動した次は勝手に俺が裏切ったことにしてショック受けてんじゃねーよ!ホント何なんだお前は!)」


「俺は必ず生き残るわずか、或いは偽物だったとしても友として俺を勇気づけてくれた綺麗な頃のイメージのお前との約束を守るためにも悪に染まり腐ってしまったお前を蹴落としてでも絶対に助かって見せる」


「キキキキー!キィーキキ(腐ってのは間違いなくお前の方だ勘違いクレイジー野郎!意味わかんねーことほざいてねーでお前でアレの始末をつけてこい)」


「うるせー!確かに俺がスキルを使ってこの事態を招いたのは確かだがそもそもスキルを使わせる事態に追い込んだのはお前らだろうがお前が責任取ってアレ《隕石》何とかしてこい」


「キキ―キ!キ…キ…(無理に決まってんだろうが無茶言うな!あんなもんどうやっ…たっ…て…)」


 叫んでいたキングマネールが振り返った瞬間口の動きがゆったりと遅くなり、つられて大河も振り返ると先ほどまで距離があった隕石がもうすぐそこまで迫ってきていた。


 それからの会話?はなかった。これ以上不毛なやり取りをしても意味がなく何より隕石という名の死を与えるものが間近まで迫っていたため助かるために逃げることを第一にしたからである。


「おおーー!!」

「キキ――!!」


 そしてその時は訪れた。隕石が地面に衝突したことにより辺り一面の土地は盛り上がって割れていき巨大な地鳴りと共に強烈な爆風を生まれた。一人と一匹は隕石の直撃から逃れこそしたものの余波の衝撃によって恐ろしい勢いで吹っ飛ばされて相当の瀕死に追い込まれた。


「はぁ、はぁ。この世界に転生してからまだそんなに経ってないってのにこれで死にそうになったの何回目だよ」


 辺りを見渡すと一面が焼け野原と化して黒く焦げておりまるで核爆弾でも落とされたかのような惨状になっており隕石の壮絶な威力を物語っていた。自分の体を見ても衣服も肉体もボロボロになっており、爆風で吹っ飛ばされたかなり強く体を打ち付けておりろくに動けそうになかた。


「正直よく生きてるな、俺」


 隣を見ると大河を追ってきていたキングマネールも身体を覆っていた体毛が丸焦げになっており焼きトカゲみたい手足伸ばしたバンザイ姿で倒れていた。


 流石にあの爆発に巻き込まれて昇天したか。最後は恐怖で悪に染まってしまったがお前はいいやつだったよ。できれば天国に行けたのならまた綺麗なお前と再会したいな。


 キングマネールが息絶えたように見えたため安心していたが突然キングマネールが目を開き大河を視界にとらえた。そしてあろうことか立ち上がろうとしていた。


 冗談、だろ…そりゃ転生したての俺が生きてんだからモンスターであるてめーが生きてんの当然といえば当然だけどよ、あらゆる関節は外れまくりところどころ骨も折れまくっててとても戦える余力なんてこっちには残ってねーぞ。


 諦めかけていたがつけ込まれないように体に鞭打って何とか立ち上がる。


 バキバキバキバキィ!!


うぅ…体を起こそうとしただけで文字通り体が悲鳴を上げて文字通り骨が折れる音が。全身から鳴ってはいけない音が鳴りまくってる。


 そうして大河とキングマネールが立ち上がると後ろの方から追っかけてきていたのか他のサルたちが回り込むように大ざるの後ろを取り囲んだ。


 うげぇ!ホントに絶体絶命なんだけど。今日で何回目だこれ?


 1匹のモノマネールが大河にに襲い掛かろうとしたときキングマネールが制した。


「キイキキ―(何で止めるんですか)」


「キキ。キーキキ(これ以上こいつに関わるな。またこんなものを落とされてはかなわん)」


 キングマネールは隕石の落ちた方を指さしながら話したことで大河もなんとなくその内容を理解した。


 あんな目に合うのはもうこりごりってわけだ。まあ俺ももう御免こうむるよ。


「懸命な判断だと思うぜ。今度は隕石程度で済むかどうかわからないからな。それでもやるっていうなら仕方ねえ。俺もほんとーーーにやりたくねーけど仕方ねからな。命が惜しいならもうとっと帰んな」


 大河がそういうとモノマネールたちはキングマネールを支えながら帰っていった。モノマネールたちが見えなくなってから力が抜けた大河は勢いよく地面に倒れ気を失った。

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