8話 楽しい口論?
大河は今にも隕石が墜落の速度を増して迫ってきており、尚且つその隕石の落下範囲内にいるというまさに三途の川の一歩まで足を踏み入れているにも関わらず不気味なほど爽やかな笑顔で未だ隕石落下範囲内を駆け抜けているという隕石落下ほどではないがかなり奇妙な行動をとっていた。
するとつい先程まで大河を追いかけていたキングマネールがいつの間か隣にきており、大河に対して必死に何かを訴えるように騒ぎ始めた。
「キキ―!(何してくれてんだよお前!)」
キングマネールは怒りで顔を真っ赤にしながら怒鳴りつけるが、まるで麻薬でも打ったかのように快楽的な気分の大河には激昂しているキングマネールの姿が笑いかけながら話しかけている姿に映っていた。
それに総じて本来理解出来ない彼らの言葉。話しかけられる内容まで耳障りのいいものに聞こえてきた。
「はははは、元気だね君。僕?僕も元気だよ。やっぱり元気なのはいいことだよね」
「キーキキ!キィキー。キキキ(いつそんな事聞いたんだよ!そんな事よりどうすんだよあのやばいやつ。あれお前の仕業だろう何とかしろ!)」
キングマネールが徐々に迫り来る隕石を指さしながら大河に怒鳴る。しかしそんな怒声も今の大河には心地のいい挨拶のようにしか聞こえていなかった。
「え?ああ、確かに日が照っていて暖かくていい天気だね。今すぐにでもひなたぼっこがしたい気分になるよね。君がそんなにはしゃぐ気持ちもわかるよ」
「キィキーキキ!キキー!(晴れのうち隕石落下中のどこがいい天気だ!お前の目は節穴か!)」
キングマネールは落下中の隕石を指さしながら叫び訴えた。大河は指先につられて隕石の方に視線を移した。
「何々?注目してほしいのは太陽じゃなくて隕石の方だって?」
「キィ、キキ―(そうだ、その通りだ。やった伝わったな)」
「どうしてあんなところにあんものがあるんだろう?珍しいこともあるもんだね。こんな珍しい光景が見られるなんて僕達ついてるね」
のほほんモードのせいか、つい数秒前の事にも関わらず忘れてしまっていた。そんな今の危機的状況を作り出したであろう張本人がすっかり忘れてまるで知らん顔していることにキングマネールは激怒した。
「キキィキ!キーキキ!キキキキ(どうしても何も大方お前が指振って変なこと言ってたのが原因なんだろうが!それにこの状況のどこがついてるだ!あれのせいでこのままだと即死コースじゃねーか)」
キングマネールがはらわた煮えくりかえりそうな思いで怒鳴りつけているのに大河の能天気な脳内はキングマネールの怒声を『あれはお前のすごい力で出現させることができたんだよ』などと都合よい言葉に変換していた。
「ああそうだったね、あれ僕のスキルでああなったんだった。結構綺麗だな。まるで大きな花火みたいだ」
片や死の恐怖から必死にもがいているものと片や死を悟っているだけに後ろから隕石というなの死神が迫っているに関わらず晴れ晴れとした笑顔で笑い続けている。
同じ場所で走っているにもかかわらず2人の温度差は恐ろしいまでに開いていた。
「キーキキ!キッキキ(何呑気なこと言ってんだ!やっちまった自覚あるなら馬鹿言ってないでさっさとアレなんとかしろよ)」
「え?『あんな凄い光景初めて見た。ありがとう』だって?大したことはあるけどそんなに気にするなよあはははは」
「キキ―!キィー!(そんなこと一言も言ってねーよ!どんだけめでたい頭してるんだよお前は!)」
「え?あんな物を出現させらるだなんでお前は天才だよだって?そんなに褒めるなよ。照れるじゃないか」
「キキ―。キィー!キキーキ(天才じゃなくて天災の間違いだ馬鹿。一体どう処理するつもりだアレ《隕石》!このままだとお前諸共死んじまうぞ)」
キングマネールが必死の形相で隕石を再度指指し訴えかけたお陰か、その思いは全く異なる形で熱意のみが伝わってしまい大河の脳内お花畑化が更に進んでしまった。
「なんだって!お前はこんなところで死んでいい奴じゃない。あんな素晴らしい芸術的な物を見せてくれたお礼にあれは俺らで食い止めるからお前は逃げて必ず生き残れだって。そんな…うぅ」
「キー!キー!キィキー!(だからそんなこと一言も言ってねー!勝手に自分の都合の良いように解釈して感動してんじゃねー!どんだけ自分勝手な耳してんだよお前は!)」
大河の恐ろしいほどの脳内お花畑活性化によっる超ご都合的な解釈によってキングマネールの言葉はもはや生を諦めていたような大河にとって特別な意味をもたらした。
神に拉致られた事から始まり、転生後に死にかけたり散々な目に遭い。その上再び自分のスキルで死を目の当たりにして絶望し諦めた。
そんな踏んだり蹴ったりの中、異世界転生後の初めて自分を励まし、己の命を投げ打ってでも自分を助けよう明言した特別な言葉であり、最も勇気を貰った言葉でもあった。そしてそのお陰で大河は生きることへの執着を取り戻すのだった。
まぁー当然のことながらそれら全ては大河の脳内が生み出した都合の良い幻想にすぎず、実際のところは即死しかねない物体を出現させた大河をキングマネールが責め立てているだけでというしょうもない状況であった。
「そうか、そうだよな。やっぱり生きることを諦めちゃいけないよな。よし!お前の気持ちはよく分かったよ。お前の気持ちをくんで必ず俺だけでも生き残るからな」
「キキ―!キィキー。キキ。キキーキ(どこが分かったんだよ!全く微塵も分かってねーだろ。恐ろしく自分本位に解釈しやがって。本当にお前の脳みそどうなってんだよ)」
キングマネールは自分の話を聞いているようで実際まるで聞いていないどころか都合よくしか解釈しない大河の頭の悪さから本当に目の前の人物は人間なのかと疑い始め、どうしてこんな奴を追いかけてしまったのだろうかとウンザリしながら後悔していた。
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