第1章 異世界転生編
1話 神という名の不審者に拉致られた
今日から中学3年生という3度目にして中学最後の年を迎えた
しかし、彼の心拍数が高かったのは走っていたから以外にも原因があった。今日彼は学校で待ち合わせをしているのだが、それが彼にとっては特別な意味があり、そのため今日は彼にとって特別な日であり、そのためいつも以上に鼓動を高鳴らせながら学校へと向かっていた。
今日こそ…もう一度!
すると突然視界が歪んだかと思ったらその場に崩れ落ち意識を失った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
気が付くと自分の見たことのない風景が広がっていた。周囲全体がまるで夜のように暗く星々のような輝きがそこら中を照らしていた。それらに魅入っていると咳払いが聞こえ、音の方に目をやると1人の老人と思える人物が寝転びながらこちらを見ていた。
正確に言えばテレビを見るお父さんのような体勢で何故か布団をかぶりながら気だるそうにこちらに眺めていた。
何やってんだろうこの人?
「ああ…まあ、めんどくさいのでほぼ全略する。質問はないな?ないよな。全略したしないものとする。それではさっそく…」
「いや待て」
正直突然意識を失ってよくわからない場所に拉致られている。湧き出す焦りを必死に沈めようとしている自分。それに対して緊張感が欠落してるとしか思えない程リラックスを通り越してダラけている老人(?)。
目の前の人物の態度からどう考えても自分と同じような連れて来られた様には見えず発言から唯一事情を知っていそう…というか犯人及びその仲間の可能性があると思われた。
そんな目の前の人物が勝手に話し出した挙句、本人は何も言っていないにも関わらず勝手に納得した事にして完結させようとしているのだ。
このわけのわからない状態を更に助長させるような発言が繰り出された時点で大河の頭は早々にパンクしかけていた。
全略って何?そんな言葉使ってる人初めて見たんだけど。どんだけ省略したいんだよこの爺さん。
「なんだ、ワシは忙しいのだ。早くしろ」
布団にくるまって人がよくもそんな言葉口にできるものだな。しかも目元に目ヤニがまだ付いているあたりさっきまで寝てただろこの爺さん⁉︎恐らく目が覚めてから布団を出てないだろう。こんな人の何処に忙しさとやらがあるのだろうか?俺にはカケラも感じられないのだが…
「いや、どこからツッコめばいいのかわからないんですけど」
「それならいっそツッコまなければなければいいじゃろう?これで解決したな。やはりこのまま…」
「いや、だから待って」
またもや勝手に納得した事にして終わらせようとする老人を制止する大河。
「ええい、いい加減にせんか」
「それはこっちのセリフだ!いきなり連れて来られたと思ったらほとんどろくな説明もなしに更にまた別の場所に飛ばすとか言われて『はい、そうですか』なんて言う奴がいるわけないだろう。もっとちゃんと説明しろよ!」
「まったく、我儘な奴じゃな」
本気で言ってるんだろか?まあ、この爺さんが何者かはまだわからないけど、とりあえずこの上なくめんどくさがりで性格がひん曲がりすぎて修復不可なご老体である事はよ〜く分かったよ。
「いや我儘とかじゃなく当然の権利だと思うんですけどね?というかまだ状況がよく呑み込めないんだけどさ、普通こういう場合連れてこられた理由とかこれからの事とか順を追って丁寧に説明しないといけないもんじゃないの?」
「何故このワシがそんなめんどくさいことしないといけないんじゃ」
じゃあなんであんたここに居るんだよ!?さっき質問がどうのこうの言ってた辺り間違いなく説明しないといけない立ち位置だろ!?
「…一応聞いておくがここに俺を連れてきたのは多分あんたなんだよな?」
「そうじゃが、それが何か?」
何で今の質問の直後にさも当然のように疑問系で返事を返せるのだろうか?
「『それが何か?』じゃねーよ。勝手に人のこと拉致っておいて人身売買みたく何も教ないまま『自分には関係ありませんから』とでも言わんばかりにこっちが起きて早々別の場所に飛ばそうとしてんじゃねーよ」
「やれやれしょうがない奴じゃのう。お前はこれから異世界へと送られる。これでよいか?」
「全然よくない…けどまあ少しは理解した。これはまあよく聞く『魔王を倒す為の勇者として異世界へ送られる』っていうやつか」
「なんじゃ、ようやく理解したのか。察しの悪い奴じゃのう」
「いや寧ろ突如誘拐されたのにパニックにならなかったことに加えて、全く足りていない情報からよくここまで導き出せたと感心するとこだと思うんだけど」
というかこの爺さんは一々悪態を突かなければ会話出来ないのだろうか?
「まあこれで充分教えたじゃろう。今度こそ…」
「いやだからまて、充分どころか最低限の事すらまだ教えられてねーよ」
「ええい、これ以上何を説明する必要があるというんじゃ」
寧ろなぜこの程度で『説明しつくしました』みたいな態度がとれるんだ?どこの誰が役割を与えたのかを知らないけれど明らかに適任じゃない。教えるのが不向きかとかそういう可愛いレベルじゃないだろこれは。教える事そのものを放棄しているんだが?
辺り一面星の光以外は真っ暗のため見えないがあることを祈りながら監視カメラを探す大河。
この腐れ神の上司が今この光景を目にしているのであれば『とにかく家に帰してくれ』なんて贅沢は言わないから目の前の性格が歪みまくった爺さんの役職剥奪と俺の担当チェンジを要求したい!
「とりあえず確認なんだがあんたは、その…神様?でいいのか」
「他に何があるというだ。低俗な貴様でも感じるであろう。この私の
「アア、ソウデスネ」
神々しいじゃなく禍々しいの間違い…じゃないな。こんな曲がってはいてもまるで威圧感のカケラも感じられない偏屈爺さんを存在するだけで圧倒的オーラを放つ悪役の強キャラと同列みたく扱うのは魅力ある悪役に失礼だな。
大河は改めて目の前の自称神と名乗る不審者を観察する。
いうならば禍々しいじゃなくスカスカしいオーラだな。大体まず布団を被ったままの状態でよく自分のことを立派な神などとほざけるものである。
どこをどう見たら威厳とやらがあると錯覚できるのだろうか?眼科と脳外科のどちらに連れて行けばいいか至極悩む症状だな。まあ、どっちも手の施しようがないと匙を投げられそうだけど。
「とりあえず魔王の討伐が目的って事でいいのか?」
「この状況で他になにかあるのか?考えなくても普通経験でわかるじゃろう」
こんなとこに拉致られるような経験してるほど人生経験は豊かじゃないわ!
「それで俺はこれから神の手によって異世界に飛ばされ魔王討伐する使命を課せられるわけだが、魔王を討ち取ったら俺は元の世界に返してもらえるということでいいんだよな」
「何を言っているのじゃ?そんなことできるわけなかろう」
自称神の予想外の発言に大河は焦った。
「え?でもこういう場合大抵目的を果たしたら返してもらえるもんじゃないのか?」
「お主何か勘違いしとらんか?それは生きたまま体ごと異世界へと転移した者の場合じゃろう。お主の場合は魂を基に異世界で転生させるから元の世界へなど帰れんぞ。仮に帰っても魂の状態でさまよい続けるだけじゃ」
「待ってくれ、それってつまり…」
俺…死んだのか?
あまりに当然の事実に大河は驚きや動揺を隠せなかった。
高校生活もこれからだったのに。あいつにも仮を作りっぱなしだったな。それにあの子にも…
「こんなことなら死ぬ前にちゃんと伝えておけばよかったな」
僅かに涙がこぼれそうにるのを堪える。だがふとある疑問が浮かぶ
「そういえば俺の死因はなんだったんだ?確か登校途中だったのは記憶にあるんだけど死んだ原因をまるで覚えてないんだが」
「またしても勘違いしておるがそもそも貴様死んだからここにおるわけではないぞ」
「は?」
最初神の言っている言葉の意味が理解できなかった。
「貴様はワシに魂を引っこ抜かれてここに連れて来られたから死んだわけではないぞ」
「は?いや、は?」
意味不明、理科不能とはまさにこのような事態のことを指すのだろう大河は実感した。
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