第24話 食事と旅行と二人の関係:純喫茶「もったり」謹製ホットサンド②
新幹線と言っても、レトロレトロ時代のものとは違い、リニアに強力な制震性が追加されているなど様々な進化が生じている。その結果、低燃費であるにもかかわらず高速移動可能、かつほとんど揺れないというなかなかとんでもない乗り物になっている。
相葉は初めて乗るということなので、窓際の席を譲ってあげた。ほとんど音もなく一気に最高速で走り始めたときには、彼女はきゃっきゃとはしゃいでいた。
「そろそろ食べないか?」
彼女がようやく落ち着いてきた頃を見計らってそう声を掛ける。
「いえい!待ってました!」
彼女の喜ぶ顔を見つつ、僕は袋から包みを取り出す。合計……6個?
「あれ?二つ多いな」
「波瀬さんがサービスしてくれたんですかねぇ」
「そうだろうね。旅行が終わったら、お礼を言いにまた遊びに行こうか」
「はいっ、またデートしましょうね!」
デート……まあそうなんだけどさ。そうやって明確に言われると気恥ずかしい。しかし、間違いなく、相葉は狙ってやっているのだと思う。
僕自信は偏屈で変なやつだ。でも、そこまで鈍感というわけではない。だから、彼女がここ最近出しているサインにだって……もちろん気づいている。
「……まあそうだね」
でも、僕はまだそのサインに答える勇気がない。だって会社の後輩だぜ?学生の頃のように向こう見ずに動くことは難しい。
「わあ!見てよ、正文さん!」
そんな僕の内心を知っているのか分からないけど、相葉はキラキラした顔をして、包みから取り出したものを見せてくる。そこにはレタスとチーズ、ハムのサンドイッチ……ではなく、
「ホットサンドだね。美味しそうだ」
しっかり焼き目が尽き、二枚のパンが蕩けたチーズで接着されている。中には赤いソースが見えており、波瀬さんの得意なトマトソースがたっぷり塗られているのが分かる。
「なるほどぉ、だから半分正解だったんですね」
「そういうこと。……いただきます」
「いただきます!」
サンドイッチはまだ温かい。口に入れた瞬間にまろやかなチーズが蕩け、ソースやシンプルな具材を引き立て合う。見た目の綺麗な派手なものではなく、シンプルゆえの美味しさ。波瀬さんはそういう料理を本当に上手に作るから凄いのだ。
「んー、美味しい!朝からこんなに贅沢するなんて、本当にいい休日です」
「喜んでくれて何よりだ。お、もう一つはツナとチーズだ。胡椒が丁度いいんだよねえ」
僕らはバクバクと平らげて、あっという間にのこり一つずつ。これだけラップではなく、紙で包まれている。
「トマトソースとチーズ、ツナとチーズと来て、次はなんだろうな?」
「うーん、普通のサンドイッチじゃないです?」
さもありなん。僕らは自分の膝に包みを置いて開ける。
「……これは」
「えー、初めて食べますけど……味が想像つかない、かも」
相葉は微妙な顔をしているが、僕は結構好きである。
「独特だから、まずは一口食べて……合わなかったらすぐに戻すんだよ」
強力な香り。人によっては「雑巾みたいだ」とも言うそれはブルーチーズだ。それといちじくに薄っすらと生クリームが塗ってある。
「……うん、美味しい」
食べられない人は結構居るだろうけど、僕はこの香りが嫌いじゃない。それにいちじくの甘みと生クリームが嘘のように調和し、チーズの独特な香りをある程度消している。
「……いきますっ」
僕の表情を見て覚悟を決めたのか、相葉はぱくりとそれにかぶりつく。そして二回三回と咀嚼して……
「あ、美味しいかも」
そのままもう一口食べているのを見ると、彼女も気に入ってくれたようだ。「意外な組み合わせが合うって、楽しいですねっ」なんて笑っている表情を見て、僕はホッとする。
とりあえず、旅行初日は順調な滑り出しを見せていた。
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