第15話 ピザ問答:イタリア食堂『ぐらっつぇ』⑥
大いに飲み、大いに食べ、大いに騒いだ。僕は楽しかったし、相葉も楽しんでいたと思う。麗子さんが気を利かせてくれたのかわからないけれど、結局21時過ぎまで個室を利用させてもらった。
そして、今はお店の外なのだが……
「ふえ……」
相葉はふらふらと僕の少し前を歩いているのだが、千鳥足という表現がここまで似合う場面も中々ないだろう。
「相葉、大丈夫か?」
僕は途中でペースダウンしたので一応問題ないし、少なくとも前後不覚で右往左往というわけではない。
「ふぃー!」
彼女はくるりと振り返ると、両手を耳の横につけるという良く分からないポーズで可愛らしい鳴き声を漏らす。
何をしているのやらと思ったのも束の間――
「ふ、ぇっ!」
「危なっ――」
彼女は急にグラリと身体を傾ける。僕は反射的に彼女を抱きとめる。
「ご、ごめんなさい!」
「いいって」
足元を見てみるとサンダルの指を引っ掛ける部分が壊れてしまったようだ。ひとまずいつまでも抱き合っているのもアレなので、一旦離れることにする。
「あははは!壊れちゃった!」
セリフだけ聞くと猟奇的とも捉えられるが、実際は酔って顔を赤くした女の子が大きく口を開けて爆笑しているだけだ。
「とりあえず、怪我はないみたいだけど、歩けそう?」
「ムリっす!」
何が楽しいかわからないが、いえーいと右手を夜空に突き上げる。うーん、楽しそうだけど少し困った……まあ歩いて帰れる距離だけどタクシーに乗ればいいか。
しかし、相葉は何故か両手を大きく広げて何かを待ち受けている。
「……?」
僕は何をしているのかよく分からなかったので、とりあえずその姿を真似して両手を広げてみる。数秒の間、この場を沈黙が支配し、いい大人二人が向き合って威嚇し合っているという珍妙な光景が生じる。
「ちっがーう!後ろ向いて!」
酔った勢いだろうが、彼女は敬語も忘れて腕を上下を振って駄々をこねる。
「あっはい」
とりあえず彼女に背中を向けてみる。ここまでくれば彼女が何をしたいのかもう分かったが……これに付き合ってやろうと思ったのも酔っているせいだと思いたい。
予想に違わず、彼女は僕の肩の上から胸の前に手を回し、そのまま勢いよく飛び乗ってくる。予想していたので――そして、彼女の身体は実に軽かったこともあって――僕はバランスを崩すこと無くそのまま彼女を背負うことになる。
「よっしゃあ!せんぱいロボ発進だあ!」
相葉は絶好調のようで、そのまま力強く僕の身体に密着する。その柔らかい身体が僕の背中に押し付けられ、正直気が気じゃない。
「……え、ほんとに?」
てっきり冗談で、すぐに降りるだろうと思っていたのだが、『ごー!ごー!』と彼女は僕の発進を急かす。
「……まあ、いっか」
あっさりと諦めて、僕は彼女を背負い直す。本当に彼女は軽くて、試しに歩いてみてもほとんど苦にならない。
僕はそのまま自宅に向かってあるき出す。背中から彼女の鼻歌――にしては大きな歌声を耳元で聞きながら、もう少しこのお酒の余韻に心身を任せることにした。
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