第19話 閑話:ある日の外食②

「……うん、甘い」

見た目よりも軽く、さっぱりしたクリームに調整されたフルーツの酸味がきちんとマッチしている。もちろん不味いわけがないし、プリントの際に丁寧に調整されていることに好感が持てる。以前のピザで確信していたことだが、やはり相葉の舌は確かのようだ。

しかし、その相葉はスプーンを口に入れたまま難しい顔をしている。

「ん?どうかしたのか?」

「……」

僕の問いかけに相葉は答えない。そのまま二度、三度とスプーンを口に運び、パフェを食べ続ける。

「相葉!どうしたんだ?」

店員さんに怒られないだろうぎりぎりの声量で相葉に再度声を掛けると、彼女はようやく僕に話しかけられていることに気づいたようだ。彼女は慌てて返事をする。

「ひゃい!ま、正文さん、どうしました?」

「どうした、じゃないよ。急に難しい顔をするからさ」

「あー……なんか、物足りなく感じちゃって?」

彼女は、眉根をひそめたままそんな感想を漏らす。

「確かに、さっぱりした味わいだけど?」

「いや……そういう訳じゃなくて……ああ!語彙力がっ、表現力が足りない!」

「落ち着け。というか、多分プリンター製だからだ。ここには結構通っていたんだろう?」

「ええ、以前は結構。プリンター製だと、味が違うんですか?」

いままではぜーんぜん気にならなかったのに、と彼女は納得していないようだ。

「もちろん。説明するのは難しいけど、味付けが派手じゃないというか、全体的に丸みを帯びた感じになる」

「あ!まさにそんな感じですよ!」

彼女は「おお!」と拳を掌に打ち付けて大いに同意してくれる。僕はちょっと気分がよくなって、さらにウンチクを続ける。

「基本的にプリンター料理、つまり『個人食』は健康第一だ。子供のころからそれしか食べていないと気にならないけど……相葉や僕みたいに、『普通の食事』を食べている身からすると、プリンターで再現しきれていない味の尖り、鋭さ、臭み、苦味、複合された香り……そういったものがないとどうしても物足りなく感じてしまう」

「うへぇー、確かに家でプリンティングするとき、最近味付けに色々足していたなあ……いつの間にか、正文さんの影響を受けていたんですねえ」

何故かちょっと嬉しそうに言う。変な勘違いをしてしまいそうになるから、是非止めて欲しい。

こほん、と一つ咳払いしてから僕は続ける。

「とにかく……そういうものだと理解して食べれば、これはこれでそこまで悪いものじゃないと思えるはずだよ」

「そうかもですけどぉ、なんか期待していたものが食べられなかったというか、そんな感じです……」

彼女はパフェを口に運びながらも、そんな愚痴を漏らす。その『食べようと思っていたものが食べられなかった』というときに気落ちするのはよく分かる。どうしても餃子を食べたくなって遅い時間に『天人五衰』に行ったら、皮を切らしていて食べられなかったことを思い出す。あのときは代わりに春巻きを頂いたが、美味しいけどこれじゃない、という感覚を捨てられなかった。

だから、僕は彼女に提案した。

「それなら、この後もう一軒いかない?」

彼女は僕の提案に目をキラキラとさせ、「はい!」とどこに行くかも聞かずに返事をしてくれた。


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