学生時代の旅行

私が大学1年のとき、山陰本線を完全制覇しようと思い郷里の山口市から下関の一駅手前の幡生から、下関発益田行きの普通列車に乗って終点の京都駅に向かった。見慣れた山口県内の線路脇には牡丹の花が咲いていて、道中、車掌さんに東京駅までの乗車券を見せたとき、すごいね!と返ってきたことを覚えている。確か長門市駅の間近のところだったと思う。

長門市駅をすぎて萩から益田市への道中に海に浮かぶ橋があってそこを通ったとき、天空の城ラピュタの天空城にいるようで気持ちがよかった。

其所は惣郷といってよく父と河豚釣りに来ていたところだ。宇田郷駅のさきにある、須佐駅とのあいだにあるライトスポットである。そこは夕日が美しいことで有名な所である。私は何度も車にのって惣郷に来たこともあり、だいたいその天空の城のような鉄橋の場所は知っていたから、わざと電車の窓を開けてまっていた。するとスポットに入ったとき天国に吹く風がすうっと入ってきた。

空は晴れ渡っていたし、水平線には何もなかった。

そして海に浮かんでいるような、この一瞬のために幡生から普通列車に乗ったんだなと思った。

益田駅に着いたとき暫く待ち時間があり、暫く待っていると、普通列車出雲市行きが入ってきた。ディーゼル機関車に連結された客車に私は乗り込んだ。

ガチャンという音がして客車が引っ張られると、私も少し揺れた。益田駅を出ると石見津田駅迄の道中が感動的だった。途中に遠田という所があってそこに海岸線が走っていて遠くに高島が海に浮かんでいた。海の色は濃いブルーで荒々しい波間が広がっていた。海岸に打ち付けられた石は長細く丸く削れていた。そしてどの石も白かった。

鵜の鼻という島と陸地が繋がっているようなところの遮断機を通ると、其所は石見津田駅だった。

誰も降りる人はいなかった。列車はさらに進んだ。今度は石見津田駅から鎌手までだ。

又ガチャンという音がすると今度は鎌手駅に着くまでに大浜というところがあり、其所に大浜漁港があるのだが、それを包み込むように線路が走っている。ガタガタガタンと列車は走りながら大浜漁港を見渡した。私は感動のあまり、おおっと声が漏れそうになった。

漁港から船が出港していった。




暫くすると鎌手駅に着いたが、鎌手駅でも誰も降りなかった。

また列車がガタンと動き出した。

ポーっと汽笛がなると、まもなく土田海岸が見えてきた。土田海岸の潮は白砂に打ち寄せては消えた。遠くに見える高島が、段々遠ざかっていく。東側に見えていた高島が、西に傾いていた、

波は水飴を何回も練り込んだような色合いを見せ、深く淡い薄青色に海は染まり、波は泡をたてていた。

そして、岡見、三保三隅と過ぎて、次は折居だった。

折居海岸は海水浴場で有名なところだ。

海はエメラルドグリーンでキラキラ輝いていて、浜田駅に進む線路は滑らかなカーブになっていて、沖へと貫いているようだった。

波の浜は綺麗で鳴砂でできているのではないかと思える程なだらかだった。

駅は無人駅で切符入れが改札のところにチョコンと置いてあるだけだったし、又誰も降りなかった。

この地方では、降りろ、というのをおりいと言うので、折居じゃけい、おりい、と旅先の冗談をいっては言葉遊びをした。

列車はまた走り出した。次は周布だ。周布はそのなの通り繊維工場が多いところだ。

列車は工場地帯と住宅地を抜けていく。

周布駅では何人か降りた。そして五六人のりこんだ。

列車は西浜田へと向かった。

今度は港町浜田だ。

西浜田の商港にはコンクリート工場と隣接した港に大型船が一隻泊まっていた。

西浜田駅を抜けると浜田駅だった。

昔益田市に住んでいるときにあれほどまで来たかった、浜田駅が其所にあった。

駅には昔ながらある地酒の看板や旅館の看板、浜田名物の利休饅頭の看板など、古い木造の駅舎のなかに、至るところにあるのが見られた。

人々が乗り降りして、そして江津駅に向かって列車は走り出した。

江津から太田市駅を跨ぐ途中、温泉津駅がある。其所もそのなの通り昔から温泉町だ。

昔、広島で被爆された方がこの温泉街の温泉につかって、体を癒したらしい。そして

列車はひたすら東へと向かった。出雲市駅に着いた頃、日は沈んでいた。終点のこの駅に着くと、駅前に出雲そばの店があって、其所でお腹を満たすことにした。

初めて食べる出雲そばは、何か麺が油であげているような麺で歯応えがしっかりあって、美味しかった。

店を出ると私は再び出雲市駅に戻って、今度は鳥取行きの普通列車に乗った。

そして鳥取駅に着くともうヨレヨレのような中年の疲れきった駅員さんがいて、もう京都行き乗りつぎたがったが、もう終電がなくしかも、夜の11時を回っていたので、鳥取の駅前の素泊まりの宿に泊まった。

次の日、宿を出て砂丘線のバスにのって鳥取砂丘にいった。

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