第5話 春休み

僕は、なんとなく

ストラビンスキーの

春の祭典、を思い浮かべてた。


春休みなのに、クラスメートと

学校に遊びに行くなんて

変だ(笑)。


狭い路地の突き当たりの

学校は、ペンキの剥げかけた白い壁、少し生い茂り過ぎの並木、それと小川と大木。


そのまま。


ただ、人の気配がないと

夕方でもどことなく

うら淋しい場所。



学校の前の十字路で、ヨーだに会った。


ヨーだは、女の子だが

天然パーマのおっとりさん。


なので、18歳くらいに間違えられる(笑)。


でもまあ、気立てのいいこ。



野球部のうっぱんと付き合っている。




どこいくの?と

寄り目で尋ねるヨーだ(笑)

なんとなく、かわいい。


学校、って

僕らが言うと


もう、誰もいないよ、って

当たり前のことを言う(笑)。



だから、行くの、って

ゆうが言う。



ふーん、そーなんだ。

じゃ、あたし、おとーふ買いに行くから、って

サンダルで行く姿は、やっぱり奥さんかな(笑)ヨーだ。



よく、スーパーで奥さんって言われるんだと。(笑)


そーだろなぁ(笑)。

学校の門扉は開いている。

いつも。

閉まらない(笑)。


田舎だから、中に入るのは猫くらい。


僕らもふつうの顔して入ったけど

制服じゃないと、なんか変な感じ。


真っ正面の校舎入口。

いつも、通学してる。

鍵は掛かっていないから、

すんなり入って、2Fの靴箱から上履きを出そう、と

思ったけど、家に持って帰ってたし(笑)


もう2Fじゃないんだ、僕らは。



なんか淋しくなった。


2Fの思い出が、一瞬に記憶から流れて行ったような気がする。


でも。

まだ1年ある卒業までは

この学校に居られる。


クラス変えがあったって。

なかよしグループは変わらないさ。



そんなふうに思った。



それで、みんな、来客用スリッパで(笑)

つるつるの床を静かに歩いた。


目の前は階段、でも

1階の右手は職員室、校長室。


まだ先生がいるかもしれない。



それはちょっと、スリル(笑)。


だいたい、私服で登校しちゃいけないのだ。


でも、春休みだから

学校に遊びにくる子は

私服できたりもしてたから

そのへんは、のどかな田舎の中学校。


僕らは、静かに2階へ上がって

階段のそば、F組の教室を開けた。



廊下から、グラウンドを見ると

部室が並んでるあたりで、テニス部の子が何人かいたし

陸上部も、まだちらほら残ってる。


それが、ちょっとうれしかった。



F組の教室は、次の2年生の為にがらん、としていた。Vacantなんて、英語の得意なわっきーが言うかもしれないな・なんて思った。


「なんか淋しい」って、とも。


「うん」って、ゆう。



「でも、過ぎた時間は帰ってこないけど、来る時間もあるよ」って、たけ。





窓の向こうに、夕暮れの町。たんぼと山と、町工場と。


遠く、単線の線路に

一両だけの電車が

お豆腐やさんラッパみたいなホーンを鳴らして。



「音楽室行こうよ」って僕は言った。


うんうん、ってみんな。


廊下の突き当たり、3階の東の端っこ。



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ぱたぱた走ってっても、誰もいないっぽい3階。

だって、卒業しちゃったもん(笑)


東の端っこの音楽室を

がらがら、って開けても

ひんやり空気。

ひな壇の教室、グランドピアノ。


僕は、覚えたばかりの「雨に濡れても」を弾いた。

伴奏パートなので、メロディーを

たけが連弾。


準備室から楽器持って来て、アンサンブルに。


ともはもちろん、自分のクラリネット。


「しゅーってピアノもできるんだ」なんて言うから

ちょっと恥ずかしかった。


覚えたばっかだもん、って答えた。


いきなりであんなに弾ける?って、ゆう。

バスケ部だけど、お嬢様だからピアノは習ってた、とか。


飽きちゃって辞めたらしい(笑)。



それじゃあ、って

ピアノはゆうに任せて、たけはフルート。

僕は、ギターが無かったんで

トランペットを持ってきた。



「何でもできるねー」って、ゆう。



ペットはね、小学生の時に鼓笛隊に誘われて。って

照れ隠しに僕は行った。



「ブラスバンド入りなよ」って、たけ。


いつか大物になるよ、なんて恥ずかしい事

言うな(笑)。


それは、指揮が大好きなバリトンの中山の名台詞(笑)だった。



中山は、合唱コンクールで「Jesuschristsuperster

をどーしてもやりたい、って駄々こねた面白い奴で

あれって、指揮してると

楽しいのかもしれないけど。


でも、中学生じゃ難しいかなー。

でも、やりたいならやらせてあげればって

僕は言った。

でも、みんなは

中山の気持ちをわかってやれなくて。


中山は、指揮を下り

指揮はたけがやったんだ。

曲も、たけの提案だったけど

すんなり、みんな受け入れたんだっけ。



まあ、優しい曲だった、ってのもあるけど。



僕は、トランペットのチューニングして


指ならしに「タブー」を吹いた。



吹きながら、みんなが笑い転げてるのを見て

僕も、可笑しくなって

吹けなくなった。



中山はかわいそうだったけど


あの曲のカッコイイとこを

みんな知らないから。

賛成しろったって無理だよ(笑)。



ラジカセ持って来て

聞かせてたけど。


音が割れてて(笑)



プロモーションも大事だよね。


トランペットの音が大きかったのか、音楽室の扉が

からから、と開いて(笑)


穏やかな表情で、ニコニコしてるのは

浅井校長先生。



みんなびっくりして、演奏を止めた。



校長先生は、ニコニコしながら「もう遅いから、わたしの車で送りましょうか」


なんて言うので、気づくともう日は沈むところだった。



校長先生は、とっても優しくて、すらりとした長身。

女の子にも人気があって。

おかーさんたちは、歌舞伎のなんとかさんに似てるとか言ってた(笑)。



お話がとても上手で、普通なら、今だって「早く帰れ!」って言いそうなんだけど


遅いから、送りましょうか?なんて言われれば。




素直に帰ります(笑)。



そういう、ところ

さすがだなー、って

僕らは、子供だけど

分かってた。



(笑ようだった。)




ゆうだけは、山の手住まいなので

同じ方向の、校長先生に送って貰った。

僕ら下町組は(笑)みんなで走って帰った。



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