第104話 第48.5局 弟子編⑬

「あ・・・れ・・・?」


「おはよう。」


 師匠の声。


 はっとして師匠の方を見る。師匠は、本を片手に、いつものような穏やかな表情で僕を見つめていた。


 僕は、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。自分の体には、師匠のカーディガンがかけられていた。


 腕時計を見ると、時間は午前4時を過ぎていた。


「す、すいません師匠。こんな時間まで。あ、あと、これ、ありがとうございました。」


 師匠に頭を下げながら、カーディガンを返す。


「どういたしまして。」


 カーディガンに腕を通しながら、師匠は答える。特に怒ってはいないようだった。むしろ、どこか嬉しそうな顔をしていた。


「さて、将棋は途中だけど・・・どうする?」


 将棋盤を指差す師匠。


「えっと・・・・・・ありがとうございます。でも、もう大丈夫です。」


 本当は、少しだけ、指しかけの将棋に、師匠との将棋に、未練はあった。でも、これ以上、師匠に甘えてしまってはだめだ。戻れなくなってしまう。


 僕の言葉に、師匠は、「そう。」と短い返事を返し、片づけを始めた。つられて、僕も片づけを始める。


 静かな休憩スペース。駒を片付けるカチャカチャという音だけが、響いていた。

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