第91話 第48局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「・・・大丈夫?」
「・・・大丈夫・・・です。」
駒を持つ僕の手は、ガチガチに固まっていた。
一週間後は、大学入試一次試験。僕にとって、本当に重要な試験。
傍から見れば、重要な試験の一週間前に、外出して将棋をする僕は、気の抜けている人に見えるだろう。だが、僕にとって、この場所に来ないという選択肢はあり得ない。何か重大な事件が起こらない限りは。
「いや、本当に大丈夫です。勉強は沢山してきましたし。何なら、ここに来る前にもずっとやってましたし。入試直前まで、頑張って勉強するつもりですし。えっと・・・大丈夫・・・ですから。」
自分に言い聞かせるように、僕は「大丈夫」を繰り返す。目の前には将棋盤があるはずなのに、僕の目はそれを捉えてはいなかった。
「・・・そんなに気を張ってると、当日、体調崩しちゃうよ。」
心配そうな師匠の声。そんな師匠の声も、今の僕には届かない。
大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・・・。
心の中で繰り返しながら、僕は手に持っていた駒を盤上に打ち下ろした。
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