第90話 第47局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「好きな人への告白ってどうやったらいいんですかね?」


 バタン!


 読んでいた本を勢いよく閉じる師匠。そして、ゆっくりと僕に顔を向ける。その顔には、明らかな焦りが浮かんでいた。


「えっと・・・誰か好きな人でも・・・できたのかい?」


 震える声で僕に尋ねる師匠。


 ・・・焦りすぎではないだろうか。


「いや、実は・・・。」


 僕は、事の経緯を師匠に説明した。


 昨日、学校の友達に、『俺、大学入試が終わったらあの子に告白するんだ。だから、どんな告白をしたらあの子が喜ぶか考えてほしい』とお願いされたのだ。


 ・・・明らかな死亡フラグであることは気にしなかった。


 説明を終えた僕の目に映ったのは、安心したような師匠の顔。


「私に、恋愛に関することを聞かれても・・・。」


「ですよね。・・・そういえば、前、恋愛小説がよく分からないって話もしましたよね。」


 思い出すのは、数か月前の出来事。お互いに、恋愛小説がよく分からないという話をした記憶。恋愛小説を読む師匠の、疲れのにじんだ顔。


 僕の言葉に、師匠は「ああ・・・そうだね・・・うん。」と曖昧な返事を返す。


 その理由が分からず、僕は首を傾げた。


 そんな僕に、師匠は一言。


「今は・・・ちょっとだけなら・・・分かる・・・かも。」

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