第88話 第45.5局

 盤上を見るふりをしながら、ちらりと師匠の方を見る。師匠は、いつものような穏やかな表情で本を読んでいた。こちらに気付いている様子はない。


 師匠と将棋をしながらたわいもない話ができる時間。ゆっくりとした穏やかな時間。とてもとても心地よくて幸せな時間。


 ・・・師匠、知ってますか?僕が、師匠のことをどれだけ大切に思っているか。


 もしかしたら、最初、僕は師匠のことを、亡くなった祖父の代わりのように思っていたのかもしれない。でも、今は違う。師匠は師匠だ。僕の、かけがえのない、大切な人。


 だからこそ、僕は、師匠と同じ大学に行きたい。同じ大学に行って、師匠ともっともっと将棋がしたい。もちろん、将棋以外のことだって・・・。


 今、師匠は大学3年生。来年は4年生。つまり、師匠の後輩として、同じ大学に行くには、今年がラストチャンスなのだ。


 絶対に・・・。


 不意に、盤上を見ようとした師匠と目が合う。


「・・・何かな?」


 不思議そうな顔で尋ねる師匠。


「あ・・・なんでもないです。」


 僕は目線を盤上に落とす。顔の温度が、少しだけ上がるのが分かった。


 今はまだ、この気持ちを師匠に伝えることはできない。だって、師匠にとって僕は、ただの弟子で、それ以上でも以下でもないのだから。


 でも、もし・・・・・・。

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