第79話 第39局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


 どうにも僕は師匠にからかわれすぎている気がする。いや、気がするというより、事実なわけだが。今まで何回・・・数えるのはよそう。落ち込んでしまう。


 だから・・・、


「君は女性のどこに魅力を感じるのかな?」


 こんな見え見えのからかいには絶対に引っかかりたくない。


「魅力ですか・・・あんまり考えたことないですね。」


 とりあえず、このように答えておけば、大丈夫なはずだ。下手に具体的な部分を挙げてしまうと、そこにつけこまれてしまう。


「・・・『これ』っていうのはあったりしないのかな?」


「うーん・・・やっぱり、よく分からないですね。そういうことにはそこまで興味がなくて。」


 師匠の追撃。だけど、慌ててはいけない。あくまで冷静に対処するんだ。


「・・・そっか。」


 そう言って、師匠は曖昧な笑みを浮かべる。そのまま、特に何も言うことはなく、盤上をじっと見つめていた。


 ふふふ。どうですか師匠。僕も成長してるんですよ。


 心の中で笑みを浮かべる僕。しかし、ちょっとした違和感を感じる。


 ・・・師匠って、こんなに諦めが早かったかな?


 師匠は、僕をからかうと決めたらなんとしてでもからかおうとする。さすがに、何度もからかわれている身だから、それくらいのことは分かる。


 もしかして今のって・・・からかいじゃなかった?


 ・・・・・・まさかね。

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