第78話 第38局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「師匠、これどうぞ。」


 僕は、師匠にポッキーを差し出す。ここに来る前、何となく買ってきたのだ。


「ん、ありがとう。」


 指し出された袋の中からポッキーを一本取り、ポリポリと食べる師匠。僕も、袋の中からポッキーを取り出し、口にする。


 ポリポリ・・・ポリポリ・・・ポリポリ・・・


「君ってさ・・・。」


 ふいに、師匠が言葉を発する。


「何ですか?」


「・・・ポッキーゲームってしたことある?」


「・・・へ!?」


 思わず間抜けな声が出てしまった。いきなりそんなことを聞かれるとは思っていなかった。


「えっと・・・したことはないですが。」


「・・・そっか。・・・・・・まだ、ポッキー余ってるよね。」


 いつものような穏やかな表情を僕に向ける師匠。


 あれ?・・・これはつまり・・・・・・そういうことですか!!


 いや、でも、急にそんなこと言われても・・・嫌とかそういうのではなくて、むしろ・・・あ、そ、そうじゃなくて、・・・あの・・・・・・。


 いろいろな言葉がグルグルと頭の中を駆け巡る。


 僕は一体どうすれば・・・・・・。


「冗談・・・だよ。」


 その言葉に、はっと我に返る僕。師匠は楽しそうに「クックック」と声を漏らしていた。


 ・・・何となくでポッキーなんて買うもんじゃないなあ。

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