第77話 第37局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「・・・負けました。」
軽く礼をする。先ほどよりも盤上に近づいた僕の目に、僕の負けがありありと映し出される。
「ありがとうございました。」
聞こえるのは、柔らかな師匠の声。今までに何度も聞いてきた師匠の言葉。
ゆっくりと顔を上げる。見ると、いつものような穏やかな表情の師匠がそこにいた。
「感想戦・・・だね。」
「・・・はい。」
僕たちは、感想戦を行う。これをしなければ、将棋は強くならない。
どこから悪くなってしまったのか・・・。あの局面での最善の手は・・・。
言葉を交わすたび、いかに師匠が僕の上を行く存在なのかが明確になっていく。
「師匠が遠いなあ・・・。」
だから、こんな言葉を口にしてしまうのは、仕方ないことだといえるだろう。
「・・・・・・そう。」
僕の言葉に、師匠はゆっくりと立ち上がった。首を傾げる僕。師匠はそんな僕のすぐ隣の椅子に腰かけた。
「・・・えっと・・・師匠?」
僕たちの間には、必ずと言っていいほど将棋盤がある。師匠がいるのは、いつも将棋盤の向こう。将棋をするのだから、当たり前だ。でも、今は・・・。
僕の心臓が、これまでにないくらい鼓動を速める。同時に、顔の温度がどんどん高くなっていく。きっと、今、僕の顔は真っ赤になっていることだろう。
「さ、続き、しよう。」
師匠はにこりと微笑む。いつもより赤くなったその顔で。
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