第74話 第36局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「・・・失敗したかな。」
対局中、突然師匠が口を開く。
「失敗・・・ですか?」
「うん。もっといい手があったよ。」
盤上を見つめる師匠。同様に、僕も盤上をじっと見つめる。師匠がどこを失敗したのか、僕には全く分からない。ただ、僕と師匠とでは、棋力があまりにも離れているのだ。きっと、師匠だからこそ分かる何かがあるのだろう。
・・・それにしても、
「師匠、失敗したって言ってるわりには、あんまり悔しそうじゃないですね。」
いつものような穏やかな表情を浮かべる師匠に向けて質問してみる。師匠の表情は、先ほどから全く変わっていないように見える。もし僕が自分の失敗に気が付いたなら、悔しさで、苦虫を噛み潰したような表情になってしまうのに。
師匠は、少し間を置いてから、「そうかもね。」と呟いた。そして、顏を上げ、ゆっくりとこちらを向いた。
その時、気が付く。師匠が、ほんの少し微笑んでいたことに。
「失敗することも、将棋の面白さだからね。」
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