第73話 第35局 お題「1時間」
アルファポリス、カクヨムで小説を投稿なさっている天野蒼空さんの企画に参加させていただきました。
天野蒼空さん
→アルファポリス https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/422973631
カクヨム https://kakuyomu.jp/users/soranoiro-777
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「そろそろだね。」
腕時計に目をやりながら、師匠はそう言った。僕も、自分の腕時計に目をやる。針は、午前1時を指していた。
「さすがに、1時間で2局連続は難しいですね。」
駒を片付けながらぼやく。
僕と師匠は、いつも0時から1時の間で将棋を指す。1時を超えてしまうと、将棋がどんなに途中であってもそこで終了。師匠曰く、受験生の僕への配慮らしい。ありがたいといえばありがたいのだが・・・。
「あの・・・まだ途中ですし・・・続きを・・・。」
ちらりと師匠を見ながら提案する。
僕の言葉に、駒を片付けていた師匠がピクリと反応する。そのまま、無言で何かを考える師匠。
「えっと・・・師匠?」
「・・・・・・だめ。君は受験生なんだから。」
師匠は、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。まるで、自分に言い聞かせるように。
「ですよね。」
僕はがっくりと肩を落とし、片付けを再開した。
駒を箱に入れ終え、盤を折りたたむ。師匠は、その二つを鞄に入れ、立ち上がった。
「じゃあ、帰ろうか。」
「はい。」
僕たちは歩き出す。前を歩く師匠。その半歩後ろを歩く僕。師匠が前に進むたびに、センサーが反応し、暗かった通路に光が灯る。
「1時間・・・短いなあ。」
師匠が何かをつぶやいたような気がした。
「師匠、何か言いました?」
「・・・別に。」
その声は、とてもとても寂しそうだった。
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