第70話 第33.5局 師匠編⑮
「弟子君、バイバイ。元気でね。」
僕は、駅の入り口で妹さんの見送りを受けていた。結局この日、僕は、妹さんのアパートに泊まることは無く、日帰りすることになった。移動中、妹さんが、「や、やっぱり、泊まらない・・・の?」と聞いてきたが、断った。そもそも、僕が妹さんの家に泊まるなんて、妹さんにはデメリットしかないのに、どうして勧めてくるのだろうか。
「妹さんも、お元気で。対局、頑張ってくださいね。」
「・・・うん。」
妹さんは、少し元気がなさそうだった。折角師匠が元気になったというのに、今度は妹さんの元気がなくなるとは。
「・・・妹さん?」
心配になり、声をかける。
妹さんは少しうつむいた後、意を決したように、ばっと顔を上げた。
「弟子君!」
「は、はい。」
「私、・・・また時間ができたらそっちに行くから。だからその時は・・・会ってくれると・・・嬉しい・・・です。」
妹さんは、プルプルと震えていた。
「・・・えっと、・・・なぜわざわざ確認を?」
「そ、そりゃ、・・・弟子君、受験生なのに、私の我儘でこっちに来てもらってるし、・・・本当に、迷惑かけちゃったし、・・・もしかしたら、・・・もう、会ってくれないかもなって思ったら・・・。」
・・・この人は何を勘違いしているのか。
「・・・妹さん、今回は、僕の意思でこっちに来たんです。だから、迷惑なんて思ってません。それに・・・、」
「それに?」
「妹さんとまた会いたいのは、僕だって同じです。」
「・・・・・・ふぇ?」
僕の言葉に驚く妹さん。次の瞬間、その顔は、トマトのように真っ赤になっていく。
「僕、まだ妹さんに将棋を教わってないですからね。」
それは、以前、妹さんが師匠に会いに来た時のこと。妹さんが帰ってしまってから、ろくに挨拶もできなかったことを思い出し、僕は、妹さんに『また機会があれば、将棋を教えてください。』とメールをした。妹さんは、『また機会があれば』と返信してくれたのだ。
「・・・あ、・・・そういう・・・。」
僕の言葉に、妹さんはがっくりとうなだれた。それはそれはもう、お手本になるくらいの気の落ち込みようだった。
新幹線が発射する時刻が迫り、僕は妹さんと別れた。僕が駅のホームに入った直後、妹さんからラインのメッセージが届く。スマートフォンの画面に、短いメッセージが表示されていた。
『ばか』
・・・・・・え~。
駅のホームに入ってきた新幹線が、ゆっくりと停車した。
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