第69話 第33.5局 師匠編⑭

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 僕と妹さんが、どす黒いオーラを放つ師匠に事の経緯を説明している時、師匠の鞄から大きな音が響いた。どうやら電話らしい。助かった・・・。


「・・・もしもし。え? だ、大丈夫・・・うん、うん・・・分かった」


 浮かない顔で電話を切る師匠。


「姉さん、どうかした?」


 心配そうに尋ねる妹さん。せっかく元気になった師匠が浮かない顔をしている。妹さんにとって、心配でないわけがない。もちろん、僕にとっても。


「母さんが、早く帰って来いって・・・。」


 心配の表情を浮かべる僕たちを安心させるように、師匠はいつものような穏やかな表情で答える。


 そういえば、僕と師匠は書き置きも残さず妹さんのアパートにやってきた。師匠のお母さんは、家に師匠がいないことに焦り、そんなことを言ったのだろう。父親が亡くなって、引きこもり気味だった娘が急に家から居なくなる。考えただけで嫌な想像が浮かんで来る。


「じゃあ、早く帰ってあげないとですね。」


「・・・うん。でも、その前に。」


 そう言って、師匠はすっと僕の方に腕を上げる。その手は、小指がピンと伸ばされ、他の指は軽く握られていた。


「また来週の金曜日、あの時間にあの場所で。」


 ・・・これ以上、嬉しい言葉が他にあるだろうか。


「はい!!」


 僕は、師匠の小指に自分の小指を絡ませる。温かくて、柔らかな感触が、僕の小指に伝わった。







「あとは・・・。」


 指切りを終え、今度は妹さんの方を向く師匠。つられて、僕も妹さんの方を見る。妹さんは、何だかもどかしげな表情をしていた。


「・・・え、えっと・・・な、何かな?姉さん。」


「今度、あなたに電話してもいいかな?」


 ピシッ。


 師匠の言葉に、妹さんが固まる。


「・・・ね・・・姉さん?・・・だ、大丈夫?・・・私のこと避けてたんじゃ・・・。」


 あわあわと慌てる妹さん。挙句の果てに、「びょ、病院に、い、いや、救急車を」とまで言い出す始末。


「・・・自分の態度を見直そうとしただけなのに。・・・どうしてこうなった。」


 頭を抱える師匠がそこにいた。

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