第57話 第33.5局 師匠編②

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。師匠はいない。


 前日、師匠から、明日はどうしてもいけないというメールが届いた。別に、おかしいことなんてない。人間だれしも同じことを繰り返せるものではないのだから。突然予定が入るなんて、よくある事だ。だが、何か胸騒ぎがする。


 師匠が来なかったことなんて今までなかったのに・・・


 師匠と僕が初めて会ったあの日から、僕たちは、毎週金曜日に必ず、この時間、この場所で将棋を指してきた。だが、今日、師匠はいない。


 胸騒ぎのせいで、居ても立ってもいられなかった僕は、今日もここに足を運んでしまったのだ。だが、することが無い。仕方なく、持ってきた詰将棋の本を読みふけっていた。


 もしかしたら、期待していたのかもしれない。師匠がひょっこりとここに現れることに。だが、いくら待っても、師匠は来なかった。


 午前1時。いつもなら、将棋盤を片付け始めている時間だ。仕方なく、僕は詰将棋の本を閉じ、席を立った。そのまま自転車置き場まで歩いて行こうとした時、静かな休憩スペースに電子音が鳴り響いた。


 PrPrPr・・・


  電話だ。スマートフォンを取り出し、画面を見る。そこには、『妹さん』の文字。


 今日は一体何の用なのか。少し警戒しながら、電話に出る。


「もしもし。」


「弟子君!助けて!!」


 スピーカーから、甲高い鬼気迫る声が聞こえた。

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