第56話 第33.5局 師匠編①
ある本で読んだことがある。お互いのことを何でも知ることが、深い関係になるコツだと。好きなもの、嫌いなもの、将来の夢、これまでの過去。お互いのことを何でも知ることができれば、自然と深い関係になれるのだと。
もしこれが正しいのならば、師匠と僕の関係は、とてもとても浅い。僕は、師匠のことを何も知らないし、師匠も僕のことを何も知らないのだから。
深い関係になりたいと思ったこともある。
師匠がどうして奨励会を止めてしまったのか。どうしてただの大学生になったのか。知りたいと思うことは山ほどある。
どうして僕が将棋を指しているのか。どうしてあの日、僕は泣いていたのか。知ってほしいと思うことは山ほどある。
それらを知り合うことができたのなら、はれて僕たちは深い関係になることができるのだろう。
だが、僕たちはそうしない。お互いが、お互いの事情に深入りしようとはしない。何故かって?当り前じゃないか。
今の関係が、僕たちにとっては、とてもとても心地いいのだから。
・・・・・・だからこそ、すいません、師匠。
揺れる電車の中、僕は、心の中で師匠に謝るのだった。今から師匠の事情に深入りしに行くことを。
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