第49話 第28局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「師匠って、お酒は飲むんですか?」


 ふと気になったことを聞いてみる。師匠は今、大学生だ。大学生といえば、お酒を飲み始めるというイメージがある。あまり想像はできないが、もしかしたら、師匠もお酒を飲むのかもしれない。


 僕の言葉に、師匠は、苦虫を噛み潰したような表情になった。


「・・・飲まないよ。」


 それだけ答え、はあと息を吐いた。どこか物憂げな師匠の姿。こんな師匠を見るのは初めてだ。


 ・・・これは聞いてもいいやつなのだろうか。いや、でも・・・。


「・・・以前、一口飲んだだけで酔いつぶれたことがあったんだよ。」


 おそらく、僕がそわそわしていることに気付いたのだろう。師匠は、ちらりと僕の方を見てそう言った。


「そうなんですね・・・。」


 短い返事をする僕。何と言葉をかけていいのか分からなかった。思わず下を向いてしまう。


 しかし、酔いつぶれた師匠か・・・・・・。何だろう、このゾワゾワする感じ。すごく見てみたい・・・。


「見せないよ。」


「・・・え?」


「絶対に見せないよ。」


 顔を上げると、僕の目の前には、こちらを睨む師匠。


 僕の考えていることは、師匠に筒抜けだったようだ。それにしても、さすがに読みが鋭すぎやしませんか。

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