第48話 第27.5局

「お前はプロになれるなあ。」


 僕に将棋を教えてくれた祖父の言葉。将棋をするたびに、ニコニコと笑いながら言っていた言葉。今でも僕の頭にこびりついている言葉。


 最後に聞いたのは、いつの頃だろうか・・・。

 

 祖父が亡くなったのは、突然のことだった。ある日、祖父は、僕と将棋を指している最中に、心臓を押さえて倒れたのだ。つい数秒前まで、穏やかな表情で、楽しそうに将棋を指していたにもかかわらず。

 

 祖父は、すぐに救急車で病院に運ばれたが、そのまま亡くなってしまった。


 祖父がいなくなってから、僕は、一日に一度は祖父のことを思い出し、涙を流した。祖父との繋がりを求め、涙を流しては、ひたすらに将棋に打ち込んだ。


 その日、僕は深夜に祖父のことを思い出し、涙を流した。机の上に置いてあった詰将棋の本を手に取り、衝動のままに外へと飛び出した。そのまま自転車に乗り、走りだす。ゆっくりと本を読むことのできる場所を考え、ふと、近所の大学の休憩スペースが頭に浮かんだ。以前、何となく行ってみたことがあるが、あそこならば誰にも見咎められることは無いだろう。


 大学の休憩スペースで、一心不乱に詰将棋を解く。あの人に出会ったのは、そんな時だった。


「こんばんは。」


 この日のことを、僕は一生忘れないだろう。

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