第47話 第27局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「師匠って、弟子に専門的なことをたくさん教えるものだと思うんだ。」


 対局が始まってすぐ、師匠がそんなことを言った。


「一般的にはそうかもですね。」


 師匠の言葉に答えながら、僕は昔のことを思い出していた。


 僕と師匠が初めて会ったあの日、師匠は、『気まぐれ』で僕の師匠になった。今思うと、なんという理由だろうか・・・。


「私は君の師匠なわけだけど・・・君に専門的なことを教えた記憶がないような・・・?」


 首を傾げる師匠。特に何か意図があるわけではなく、純粋に疑問に思っているようだった。


「・・・・・・まあ、いろいろと教わってますよ。」


 僕へのからかい方とか・・・。


「・・・少し間があったのが気になるけど・・・それならよかった。」


 師匠は、いつものような穏やかな表情を浮かべ、盤上に顔を向けた。そして、駒を手に取り、ゆっくりとした動作でパチリと打ち下ろす。


 それに続くように、僕も盤上に顔を向ける。


 ・・・多分、これでいいのだ。同じ盤に向かって、たわいもない話をして、時々からかい、からかわれて。それが、一般的な師匠と弟子の関係ではなかったとしても。たとえ、『気まぐれ』から生まれた関係だったとしても。


 僕たちは、正真正銘、師匠とその弟子だ。


 静かな休憩スペースに、僕と師匠の駒音が優しく響き続けていた。

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