第46話 第26局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「今更なんだけど、君のご両親は、君が深夜に外出するのを心配してたりはしないのかい。」
そう言った師匠の表情は、ほんの少し不安げだった。
「大丈夫ですよ。いつも僕が外出するときに、『悪いことはするなよ~。』って言うだけですし。」
自分の両親ながら、そんなにのほほんとしていていいのかといつも思ってしまう。多分、僕が受験前に旅行に行ったとしても、あの二人なら特に何も言ってこないのではないだろうか。
「・・・そっか。」
師匠は安心したように、ふっと息を吐いた。そして、盤上へと顔を向け、次の手を考え出す。
僕も師匠につられ、盤上に集中した。僕たちの間を、沈黙が支配する。だが、嫌な沈黙ではない。いつも通りの、不思議で、穏やかな沈黙だ。駒音が、休憩スペースに優しく響く。
二人の会話が始まったのは、数十分後のことだった。
「私、君のご両親に挨拶しておいた方がいいのかな・・・。」
・・・・・・今、師匠はなんて言った?
「えっと・・・師匠、もう一回言ってくれませんか?」
「え?君のご両親に挨拶した方がいいのかなって・・・・・・あ!」
師匠も自分がとんでもないことを言っていることに気が付いたようだった。
「ち、違うからね!師匠としての挨拶であって、別に、そういう挨拶じゃ・・・。」
「わ、分かってます!大丈夫です!!」
わたわたと取り乱す師匠と僕。
もしも、師匠が急に僕の家にやって来て、両親に、「挨拶に来ました。」と言ったとしたら、どうなるだろう。・・・・・・絶対に勘違いされる。
僕たちの間を、気まずい沈黙が支配した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます