第44話 第24.5局

「じゃあね、弟子君、おやすみ。また電話するね。」


「はい、おやすみなさい、妹さん。」


 そう言って、電話を切る。


 妹さんは、最近、一週間に一回は電話をかけてくるようになった。大抵は、師匠の様子について話した後、たわいもない話をする。以前、どうして僕にたくさん電話をかけてくるのかを聞いたことがあったが、「・・・まあ、いいじゃない。」と濁されてしまった。奨励会3段リーグで戦っている妹さんが、暇なはずはないと思うのだが・・・。


 それにしても、人の縁と言うのは不思議なものだ。ただの高校生である僕が、元奨励会員の師匠、そして、現奨励会員の妹さんと知り合いだなんて・・・。


 スマートフォンの電源を落とし、机の上に置く。暗くなったその画面には、僕の顔がぼんやりと映っていた。以前と比べ、その表情は、穏やかさを増したように思える。・・・師匠の影響だろうか。


 ふと、妹さんのあの言葉を思い出す。


「姉さんは、私たちの師匠から破門されたんだよ。ある日突然、『二度と将棋はやらない』って言ってね。あれは、冗談を言う顔じゃなかった・・・・・・。」


 それは、妹さんと初めて会った次の日、妹さんの口から語られた言葉だった。


 もしこの言葉が真実なのだとしたら、おそらく、師匠は『将棋から逃げた人』なのだろう。


 ・・・本当に、人の縁と言うのは不思議なものだ。


 『将棋から逃げた人』である師匠。そして、その弟子である僕が・・・・・・、




 『将棋に逃げた人』だなんて。

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