第43話 第24局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「むう・・・、変なミスばっかりするなあ。」
盤上には、すでに敗勢状態になった局面が広がっている。今日も僕は、師匠にコテンパンにやられていた。
「・・・ミスなんて、いくら考えていてもやってしまうよ。」
ぼやく僕を見て、師匠は、いつものような穏やかな表情を浮かべる。
師匠の言っていることは分かるし、これまで幾度となく言われてきたことだ。だが、どうにも割り切れない自分がいた。
「ですよね・・・。師匠みたいに、ミスの少ない将棋を指したいです。」
それは、何気ない一言だった。だが、どうしてだろうか。先ほどまで僕たちを取り巻いていた穏やかな空気が、ほんの少し変化するのを感じた。
「・・・私もたくさんミスをしてるよ。この将棋でも、・・・・・・これまでの将棋でもね。」
目の前にいたのは、とても悲しげな表情の師匠だった。
「・・・えっと・・・し、師匠・・・あの・・・」
師匠の悲しむ顔を見たくないと、僕の心が叫び出す。
何かを言わなければいけない気がした。だが、その言葉が出てこない。頭をグルグルと回転させる。このまま何も言わずに、「そうなんですね。」と流すわけにはいかない。何か、何か、何か・・・・・・。
その時だった。パチリという駒音が、休憩スペースに響いた。
はっと我に返り、師匠の方を見る。先ほどの悲しげな表情はどこに行ったのか。その顔には、いたずらをする子どものような笑みが浮かんでいた。
「・・・・・・師匠・・・僕をからかう時は、ミスをしてくれても・・・」
「・・・無理。」
師匠の言葉に、僕はがっくりと肩を落とすのだった。
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