第42話 第23局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「師匠って、ネット将棋はしないんですか?」
ネット将棋は、今や多くの人が指している。もちろん、僕も例外ではない。最近は、師匠に勝つための将棋の特訓として、頻繁にネット将棋をやっているのだ。
「・・・やらないかな。相手の顔が見える将棋の方が私は好きだからね。」
本を読みながら将棋を指していた師匠は、ちらりと僕を見てそう言った。将棋を心から愛している師匠であるが、ネット将棋はお気に召さないようだ。
相手の顔が見えること。師匠と出会う前の僕なら、とりとめもないことだと思っていただろうが、今の僕には、その重要性が痛いほどよく分かる。
「まあ、確かにそうですね。例えばですけど、師匠と将棋を指している時は、師匠の顔が見えた方が嬉しいですし。」
師匠との将棋、それは、お互いが顔を見合わせ、たわいもない話をしながら指すものだ。お互いの顔を見ることのできないネット将棋では、少し味気ない。
師匠は僕の言葉にピクリと肩を揺らした。そして、ゆっくりと本を閉じ、鞄にしまう。そのまま僕の方に体を向け、盤上を見つめる。その動作は、どこかぎこちなかった。
「あれ?珍しいですね。途中で読むのを止めるなんて。」
いつもの師匠なら、本を読みながら対局をする際、対局の初めから終わりまでずっと本は開きっぱなしだ。今日はどういう風の吹き回しだろうか。
「・・・読み終えたからね。」
「え?でも、まだ半分くらいしか」
「読み終えたからね。」
「あ・・・はい。」
先ほどよりよく見えるようになった師匠の顔は、少し赤みを帯びていた。
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