第41話 第22局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
まぶたが重い。体育の授業で激しい運動をしたからだろうか。はたまた、最近、勉強で夜更かしをしているからだろうか。どちらにしても、対局中に居眠りをしてしまうわけにはいかない。目をこすり、必死に眠気を覚まそうとする。
「・・・君、今日は眠そうだね。」
しかし、師匠にはお見通しだったようだ。もしかしたら、師匠は怒っているかもしれない。恐る恐る盤上から顔を上げる。
目の前には、いつものような穏やかな表情を浮かべた師匠がいた。
「あ・・・、えっと・・・すいません。対局中なのに。」
困惑しながらも謝罪する。怒ってないのだろうか・・・。
僕の心配をよそに、師匠はにこりと微笑んだ。
「まあ、こんな時間だしね。仕方ないよ。」
そう言って、盤上に向き直る師匠。駒を手に取り、ぱちりと打ち下ろす。その音は、いつもよりも優しく感じられた。
師匠はああ言ってくれたが、今の状態で対局するなんて師匠に失礼だ。両頬をぱちんと叩き、気合を入れ直す。
そんな僕を見て、師匠は再びにこりと微笑む。そして、
「膝枕でもするかい?」
とんでもないことを言った。
「え!ひ、膝枕・・・ですか?」
自分の声がうわずるのが分かる。もしここで、僕が「お願いします。」など言おうものなら、どうなってしまうのだろうか。本当に師匠は、僕に膝枕をするのだろうか。それとも・・・・・・。
「眠気、覚めた?」
その言葉にはっとする。目の前には、僕をじっと見つめる師匠。思わず吸い込まれそうなほどきれいな瞳だった。自分の顔が急速に熱を帯びる。
「・・・ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
僕は、自分の赤くなった顔を隠すように、前のめりに盤上を見つめた。
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