第37話 第20局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


 どうにも将棋に集中ができない。その理由ははっきりしている。僕の目線の先、盤上に駒を打ち下ろす師匠の人差し指に、先週はなかったはずの絆創膏が貼ってあるのだ。師匠のきれいな肌色の手に、その絆創膏はとてもとても不似合いだった。


「・・・すまないね。」


 不意に、師匠が僕に言葉をかける。ビクリとして師匠の方を見ると、申し訳なさそうな表情をした師匠がいた。


「・・・何がですか?」


「これ。気になるんだろう。」


 そう言って、人差し指の絆創膏を示す師匠。どうやら、僕がその絆創膏を気にしていたことは、師匠に筒抜けだったようだ。


「それ、どうしたんですか?」


 ばれてしまっていたのならば仕方がない。思い切って聞いてみることにする。


 僕の質問に、師匠は、恥ずかしそうに絆創膏をなでながらこう言った。


「まあ・・・うん・・・昨日料理をしてたんだけど、缶詰を開けてるときにね・・・蓋で切っちゃったんだよ。」


 その言葉に、僕は、何かとてつもない違和感を感じてしまった。


 師匠が・・・・・・・・・料理?


「・・・君、何か失礼なことを考えていないかい?」


 ジト目で僕を見る師匠。どうにも、僕の考えていることは師匠に筒抜けになってしまう。


「そ、そんなことないですよ・・・あ、あはは」


 僕は、師匠の視線から逃れようと、顔を背けた。


 ・・・その日、いつも以上に将棋でボコボコにされた僕なのだった。

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