第38話 第21局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「これ、どうぞ。」
そう言って、師匠は一冊の雑誌を僕に手渡した。その本には、大きな文字で『将棋世界』と記されていた。
『将棋世界』は、将棋指しの間では有名な将棋雑誌だ。僕は毎月購読しているが、今月は勉強のための参考書をいくつも買ったことで、雑誌を買う余裕がなかったのだ。先週、師匠にこの話をすると、「私が読んだものでよければ貸すよ」と提案してくれた。
「ありがとうございま・・・す?」
師匠から雑誌を受け取る。その時、雑誌に付箋が付いていることに気が付いた。思わず、付箋が付けられているページを開く。
「・・・『師弟物語』・・・ですか?」
「そう、面白かったよ。」
にこりと笑みを浮かべる師匠。・・・なぜだろうか。無言の圧力を感じる。まるで、「絶対にこれを読みなさい」とでも言っているような・・・。
圧力に押され、文章を目で追っていく。『師弟物語』には、とある師匠と弟子の二人に対する、インタビューが掲載されていた。文章を読んだだけでも、弟子が師匠のことをどれだけ尊敬しているのかということが伝わってきた。
文章は、次のページにも続いている。僕は、パラリとページをめくった。
「・・・・・・うあ。」
僕の口から変な声が漏れる。僕の視線の先。文章のとある部分。師匠がマーカーで線を引いていた部分。そこには、このように書かれていた。
『師匠と弟子って、お互いを支え合う夫婦みたいなものだと思うんです。』
・・・・・・夫婦?・・・・・・師匠と弟子が?・・・・・・つまり、・・・・・・師匠と僕は・・・・・・夫婦?
『ただいまー。』
『おかえりなさい、あなた。』
『今日は本当に疲れたよ。』
『ふふ。お疲れ様。』
・・・・・・いや・・・・・・、いやいやいや。僕はなんて想像を。
その時、はっと気が付く。目の前で、師匠がクスクスと笑っていることに。
「し、将棋の続き、しましょう!こ、この雑誌は、あ、後で読みますね。」
慌てて取り繕う僕。師匠は、そんな僕を見て、いつまでもクスクスと笑っていた。
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