第36話 第19局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「師匠の夢って何ですか?」
駒の並びを整えながら、僕は師匠に質問した。
盤上から顔を上げ、師匠の方を見る。師匠はかなり驚いた顔をしていた。
「・・・どうして?」
首を傾げる師匠。なぜ突然そんなことを聞いてくるのだろうと疑問に思っているようだった。
「えっと、最近、学校の友達が、『俺は将来ビッグになる。』ばっかり言ってるんです。それで、ふと、師匠の夢って何だろうなって思いまして。」
「・・・その友達の行く末が気になるところだけど・・・しかし、・・・私の夢か。」
腕組みをする師匠。一体どんな答えが返ってくるのか、・・・
「・・・楽しい将棋を・・・たくさんすること・・・かな。」
返ってきたのは、いかにも師匠らしい答えだった。思わず、僕の口から「さすが師匠ですね。」と声が漏れる。
「・・・君は?」
「・・・え?」
「・・・君の夢は?」
いつものような穏やかな表情の師匠。その瞳が、まっすぐに僕を捉えていた。
「・・・僕の夢は・・・」
僕は、師匠と同じように腕組みをして考える。師匠と同じ大学に通うこと、将来就きたい職業。いろいろな夢が頭の中を駆け巡る。だが、最大級の僕の夢。僕が、心から願っていること。それは、多分・・・これだ。
「・・・楽しい将棋を・・・たくさんすること・・・です。」
僕は、ゆっくりと噛みしめるように言葉を紡ぎ出した。
僕の目には、にこりと微笑む師匠が映っていた。
ちなみに、師匠に言った言葉の中で、僕がはぐらかした部分がある。僕の本当の夢、それは・・・
「楽しい将棋を『師匠と』たくさんすること」だ。
実は、師匠も同じように答えをはぐらかしていたりして・・・・・・。なんてね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます