第35話 第18.5局 元妹弟子編⑩

 今日は多分いい日だった。いや、言い直すとしよう。昨日と今日は、多分いい日だった。姉さんが将棋の世界に戻って来てくれたことを知った。姉さんに会うことができた。姉さんと少しだけだが話をすることができた。そして、姉さんに私の気持ちを伝えることができた。まあ、相変わらず拒絶されているのだが・・・。


 さて、それはそれとして・・・・・・


 やらかしたあああああああああああああああ。


 いや、もうほんと、何やってんだ私。どうして言い逃げみたいなことしちゃうかなあ。挙句の果てに、弟子君を置き去りにして逃げるなんて。なんて謝ったらいいのか・・・。


 すぐにでも弟子君に会って謝りたいが、今はもう帰りの電車の中。本当なら、来たとき同様、バスを使ってゆっくり帰る予定だった。だが、姉さんの前から走り去った後、すぐに帰って将棋の特訓をしなければという思いから、バスよりも早く帰る事のできる電車に飛び乗ったのだった。


 メールをしようか・・・いや、どんな文面を送ればいいんだ・・・。うう・・・、弟子君、・・・ごめん・・・。


 きっと、弟子君は怒っていることだろう。思えば、昨日から私は弟子君を振り回しすぎてしまっていた。それなのに、・・・・・・。


 鞄から、スマートフォンを取り出す。何とか謝罪の文面を考えようとしたためだ。


 その時、気が付く。


「あ・・・。」


 弟子君から、メッセージが届いていたことに。


『こっちは心配ないです。確か、今日、向こうに帰るんでしたよね。また機会があれば、将棋を教えてください。』


 なんてことはない、普通のメッセージだった。そこには、怒りや文句のかけらもなかった。


 ・・・・・・ありがとう、弟子君。


『昨日も今日も本当にありがとう。また機会があれば。』


 なんてことはない、普通のメッセージ。


 メッセージを送信し、スマートフォンの電源を落とす。画面が暗くなり、私の顔が映る。その顔は、少しにやけ顔になっていた。


 最初の言葉を再び言い直そうと思う。昨日と今日は、いい日だった。姉さんが将棋の世界に戻って来てくれたことを知った。姉さんに会うことができた。姉さんと少しだけだが話をすることができた。姉さんに私の気持ちを伝えることができた。そして・・・・・・





 弟子君と出会うことができた。

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