第33話 第18.5局 元妹弟子編⑧

 妹さんがいなくなり、僕と師匠だけになった研究室。しんと静まり返ったそこは、どうにも居心地が悪かった。


「・・・すまないね。みっともないところを見せてしまって。」


 師匠の表情は、とても気まずそうだった。そんな師匠の姿を、僕は直視することができないでいた。顔を背け、「いえ・・・。」と返す。それ以上の言葉は、出てこなかった。


「・・・知りたいかい?」


「・・・え?」


「私が、どうしてあの子を突き放しているのか。どうして、・・・傷つけるようなことをしているのか。」


 その言葉に、以前、師匠が言っていたことを思い出す。


『・・・・・・相手を傷つけることが正当だと思う人も、いるんだよ』


 これは、一体誰のことを指しているのか。この言葉を聞いた時には、分からなかったが、今なら何となくわかる。相手を傷つけることが正当だと思う人、それは・・・・・・。


 ・・・・・・いや、そんなこと、今はどうでもいい。師匠が言っていた人物が誰であったとしても、僕の答えは一つだ。


「・・・いえ、・・・いいです。・・・あまり他人の事情に深入りするのは好きじゃない・・・ので。」


 僕は、師匠に返答する。かつての師匠の言葉を。だって僕は、師匠の弟子なのだから。


「・・・・・・そう。」


 そう言って、師匠はいつものような穏やかな表情に戻った。だが、すぐに、その表情は変化してしまう。


「・・・まあ、それはそれとして・・・・・・あの子と一緒に居た理由を説明してもらおうか。」


 激しい怒りの表情に。


「ひええ。」


 師匠の背後から、ゴゴゴゴゴゴという音が聞こえた。

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