第27話 第18.5局 元妹弟子編②

 姉さんのお母様から見せてもらった手紙によると、姉さんは、進学した他県の大学に入り浸っているらしい。帰るのはいつも深夜だとか。その県は、私のいる県からバスで4時間ほど。私は、師匠、つまり姉さんのお父様に許可をもらい、はるばるその県へと足を運んだ。


 これまで、師匠は姉さんに会いに行くことを許してはくれなかった。まだ姉さんに対する怒りが収まっていなかったからだ。だが、今回、ようやく許可が下りた。師匠もまた、姉さんのことが心配なのだろう。いや、これまで以上に私が強く懇願したからかもしれない。


 バスの中で、スマートフォンをぎゅっと握りしめる。その画面には、以前、姉さんから送られてきた激励のメッセージが表示されていた。本当なら、こちらから会いに行くという連絡をするべきなのだろう。私自身も、姉さんと連絡が取りたい。だが、姉さんのことだ。きっと強く反対するに決まっている。だから、姉さんに連絡をしたい気持ちを必死に押しとどめた。


 その県に着いた時には、もう23時になっていた。出発が予定よりもかなり遅れてしまったせいだ。だが、焦る必要はない。姉さんは深夜まで大学に入り浸っているはずなのだから。幸い、それほど大きな大学でもない。姉さんの所属する学部も分かっている。


 ホテルのチェックインを済ませ、荷物を部屋に置き、大学へと出発する。大学に着いたのは、0時を過ぎた頃だった。門を抜け、大学構内の地図を見る。大学内で深夜まで入り浸れる場所といえば、おそらく研究棟だろう。私は、研究棟に向かうべく、歩みを進めた。


 中途半端な広さの庭の先。そこには大きな窓があり、その窓から、大学の校内を見ることができる。そして、それは一瞬で目に入った。当然だ。真っ暗なはずの校内が、煌々と光っていたからだ。そこにいたのは、姉さんと一人の青年。大人っぽい姉さんと比べて、その青年はとても幼く思えた。だが、実際の年は私とそれほど変わらないのではないだろうか。


 私は、思わず走り出した。だが、二人が何をしているのかを理解し、すぐに動きを止めた。


 二人がしていたのは、将棋だった。

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