第26話 第18.5局 元妹弟子編①

「じゃあ、師匠、ありがとうございました。また来週に。」


「そうだね。また来週。」


 そう言って、僕たちは別れた。師匠が大学の建物(研究棟と聞いている)の中に入っていくのを見送ってから、僕は自転車にまたがった。


 その時、遠くの方から聞きなれない声がした。


「こんばんは。」


 声のした方を見る。そこには、短髪で、いかにもボーイッシュといった服装の女性が立っていた。先ほどまで師匠と顔を向かわせていたからだろうか。大人っぽい師匠と比べて、目の前の彼女はとても幼く思えた。おそらく、高校3年生の僕とそれほど年は変わらないのだろう。


「えっと・・・・・・こんばんは。」


 僕は少し足がすくんでいた。時間は深夜1時を過ぎている。そんな時間に声をかけられることなど今までなかったからだ。


 彼女はゆっくりと歩き出し、僕の前で立ち止まる。そのまま、じっと僕を見つめる。それは、まるで僕を値踏みするかのように。


「・・・あなた、誰ですか?」


 緊張しながらも、なんとか言葉を絞り出す。こんな時間にこんな場所で声をかけてくる人だ。ちゃんと答えを返してくれるか不安だったが、その心配は杞憂に終わった。僕の問いかけに対して、彼女はすこし慌てたように居住まいを正した。


「ああ、ごめんね。自己紹介もせずに。・・・そうだね、私は・・・・・・」


 その言葉を発する彼女の表情は、すこし苦しそうに思えた。


「あなたの師匠の妹、正確には、元、だけどね。」

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