第3話 第3局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。

 

 くぴくぴとお茶を飲む。将棋に集中していると、自然と喉が乾くものだ。ただ、今まで師匠が対局中にお茶を飲んでいる姿を僕は見たことが無い。今日も、師匠は何食わぬ顔で将棋を指していた。


「師匠って、対局中に喉が乾いたりはしないんですか?」


 僕の質問に、「ん?」と反応する師匠。いつものような穏やかな表情が僕を見つめる。


「まあ、私はあんまりそんなことは無いかな。」


 そんな短い会話を終え、僕たちは対局に戻る。


 数分後、師匠は急に立ち上がった。どうしたのだろうと思っていると、師匠は、傍にある自動販売機でお茶を買って、戻ってきた。そのままゆっくりとお茶を飲み始める師匠。


 頭が混乱するのが分かる。先ほど師匠が言っていたことと、今の師匠の行動が矛盾していたからだ。


 頭の中がはてなマークで埋め尽くされた時、「ふふっ」という声が聞こえた。声のした方を見ると、師匠が、僕に笑みを向けていた。


「・・・もしかして、からかってますか?」


「・・・なんのことかな?」


 とても楽しそうな表情の師匠がそこにいた。

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