第2話 第2局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「ふと気になったのだけど。」


 将棋が中盤戦にさしかかった頃、師匠が口を開いた。僕は盤上を見つめながら、少しの意識を師匠の方に向ける。


「君、私の他には誰と将棋を指すことが多いんだい?」


 とてもたわいもない質問だった。僕は頭の中で駒を動かしながら、ありのままを答える。


「ここ最近は、師匠としか指してないですね。他の人と指すよりも、師匠と指す方が好きですし。」


 ぴしっという音が聞こえた気がした。顔を上げると、師匠が驚いた表情をしていた。その理由が分からず、僕は首を傾げる。数秒後、師匠ははっとしたように「そ、そうかい。」と答え、盤上に顔を向けた。その顔は、少し赤みがかっているように見えた。


 今日の将棋は、いつもよりも白熱したものになった。いつもは師匠が僕をコテンパンにするのだが、何故だか今日は、師匠の手が鈍っていたように感じられた。・・・まあ、負けたのだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る