第4話 第3.5局

 師匠から破門だと告げられた。破門、つまり、弟子を辞めろという事だ。ただ、思ったよりも悲しくはなかった。そもそも、師匠と自分とでは考え方が違う。自分が師匠の考え方に合わせればいいのだろうが、どうしても自分の考えを曲げたくはなかった。


 周囲は自分に説得を試みた。だが、それには応じなかった。何が悲しくて、こんな苦しい環境の中で、しかも、違う考えを持った人たちと一緒に将棋を指さなければいけないのか。どうして相手の苦しむ顔を見なければいけないのか。どうして自分が苦しまなければいけないのか。



 ああ、いやだなあ。思い出してしまった。



「師匠?」


 その声に、ふと我に返る。見ると、私の弟子が、不思議そうな顔でこちらを見つめていた。


「・・・いや、少し考え事をしていてね。驚かせてしまったかな。」


 ああ、やっぱり、ここが私の居場所だ。


 本当は、帰りたくはない。少しでも長く、ここで将棋をしていたい。だが、私の弟子は高校生だ。私の事情に、あまり長く付き合わせるのも申し訳ない。


「帰ろうか。」


 願わくは、この幸せが、少しでも長く続かんことを。

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