第10話 朝
「ヤ〜ア〜!起きろ〜!」
クォン・ウォンジュンのかしましすぎる怒鳴り声が、夢の世界を彷徨っていた首藤盛重の意識を現世の淵まで呼び戻す。
盛重のすぐ目の前には、大衆の前に出る時よりも遥かに幼さを感じるウォンジュンの美貌。ややしかめっ面で何やら訴えかけてくるが、現に舞い戻ったばかりの盛重には彼が何を言っているのか、声は聞き取れても言葉として処理ができない。
盛重はとりあえずウォンジュンの身体を抱きしめてみた。いつも美容液を全身に塗りつけている為にしっとりと触り心地の良いウォンジュンの肌を自身の逞しい身体に密着させ撫で回すうち、盛重の脳裏に熱い記憶が蘇る。
盛重はウォンジュンから『恋人らしいこと沢山しよう』と諭された日から、時間の都合さえ合えばウォンジュンを抱いている。ウォンジュンという人間はハッテン場をうろついていた割に初々しく、初めて盛重が彼を抱いた日は顔を激しく紅潮させて涙を流し盛重を心配させた。
幾度目かになる今では泣くほどは無いものの、悲鳴にも近い喘ぎを聞かせるので盛重は依然としてウォンジュンを心配しつつ事に及んでいる。
「ザギ(※)やぁ、起きろよぉ。10時だよう。俺もう目が覚めちゃったよぉ」
ようやくウォンジュンの声が言葉として耳に入ってき出した頃、彼が起きろ起きろと騒がしく言い立てるのに盛重は「非番日!」と強く返した。
「ザギは非番日です…ジュニは気にせず仕事に行って下さい…」
「俺の仕事ここでやるんだけど。チャンネルに上げる動画の撮影2〜3個と、トーク番組で放送する用のルームツアー動画の撮影」
「ウソ」
盛重の意識が完全に覚醒した。部屋の中を撮影するということは、自分はしばらく外に出るかカメラの向いていない場所にいなければならないだろう。人気モデルの住むワンルームに得体の知れない男の影があっては、全国の視聴者がどよめき立ちかねない。特に自分の風貌では。
仕方が無いから近所を散歩していよう。そう思いながら盛重が渋々身を起こすと掛け布団が捲れ、隣に寝転んでいたウォンジュンの裸体が露わになった。全体的に色白で、筋肉の殆ど浮き出ていない所謂『ヒョロガリ』な体型ながら得も言われぬ色気を放つ彼の肢体。
盛重はふと衝動に駆られ、ウォンジュンの身体を組み敷いた。
「ザギ?いや、モリシゲ?」
ウォンジュンの口許に引きつり気味の笑みが浮かぶ。
「ジュニ、撮影って今じゃなくても良いの?」
「んんん?いや良いけど、モリシゲ顔が怖いよ?モリシゲ?」
「ゴチです」
盛重は手を合わせてお辞儀をすると、すぐさまウォンジュンの首に食らいついた。
この後、盛重によって3回ほど絶頂を迎えさせられたウォンジュンは疲弊によって3時間ほど寝入ってしまったが、その後ノンストップで個人チャンネル用の動画3個とトーク番組用のルームツアー動画を撮影しきったのだった。
なおこの間、盛重は夕飯の材料とウォンジュンの好物であるフライドポテト1kg分、使い捨ての黒マスク50枚セットを買いに、家からほんのり遠い場所にある業務スーパーまで走らされたのだった。
※ザギ…恋人に向けて使う言葉。ダーリンとかハニーとかと同義。
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